研究課題/領域番号 |
03044051
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清水 博 東京大学, 薬学部, 教授 (30037577)
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研究分担者 |
山口 陽子 東京大学, 薬学部, 助手 (00158122)
矢野 雅文 東京大学, 薬学部, 助教授 (80119635)
KOERNER Edga イルメナウ工科大学, 教授
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研究期間 (年度) |
1991
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研究課題ステータス |
完了 (1991年度)
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配分額 *注記 |
2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
1991年度: 2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
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キーワード | 海馬 / 大脳皮質 / シ-タリズム / 位相固定ル-プ / 記憶形成 / 振動同期 / 図と地の分離 / パタ-ン認識 |
研究概要 |
脳の記憶の研究では海馬は近時記憶、大脳新皮質連合野は長期記憶に関係していると考えられているが、長期記憶が固定されるまでには海馬の働きが不可欠な役割を担うことも示唆されている。つまり、長期記憶形成の問題において、海馬は新皮質の情報処理を制御しながら、両者が密接な関係で働くことになり、その神経回路レベルの機構の解明は脳科学の発展のための重要問題となっている。 本研究では海馬と大脳新皮質との機能がどのように連携しているかという問題を神経活動のリズム現象に注目してその機構を解明することを目指した。これまでに得られた多くの生理学的知見を合わせると認知活動においては大脳の情報処理は2種類のリズム活動を基礎にしていると考えることができる。一つシ-タリズムと呼ばれる数ヘルツのリズムでは海馬を中心にした辺縁皮質で現れることが古くから知られている。もう一つは40ー60ヘルツの速いリズムで、大脳新皮質で刺激依存的な活動として現れることが最近実験的に急速に明らかにされつつある。海馬のシ-タリズムは個体の行動レベルで変わり、グロ-バルな意味での心理状態とかなり関係した情報を担うと考えられる。また後者の速いリズムについては、本研究担当者の清水らによって1985年以降、視覚情報系における存在が予見され、情報の統合と分離にぞのリズムが働らくことが理論的に示されていた。1988頃、ドイツのSingerのグル-プ、Reitboeckのグル-プはほぼ同時にネコ視覚野の実験において線刺激呈示条件下で40ー60ヘルツのリズムが現れることを発見した。われわれはこれらの事実を踏まえて次のような仮説をたてた。1)脳のリズム活動は神経細胞の間の同期、非同期の動的な性質によって、実時間での柔軟な図と地の分離を行う。このことはシ-タリズムでの速いリズムでも同様である。2)遅いリズムである海馬の活動はおもに速いリズムを持つ大脳新皮質の情報処理に対して拘束条件を与え、相互に整理的になることによって辻妻のあった情報統合とそのもとでの記憶形成がおこなわれる。この仮説のもとで2種類の情報の動的な連携のスキ-ムを理論的にモデル化し検討した。具体的にはこれらの両種のリズムと、海馬ー皮質間にリズム活動が秩序を作った場合に形成される「位相固定ル-プ」として活動のそろった神経集団ができると仮定し、それらの間での動的で柔軟なコネクションが情報の統合と分離を可能にする機構を考えた。 海馬神経回路のモデル化についてはおもにドイツのグル-プがこれにあった。モデルは研究分担者がそれぞれの回路について分担する形で実行した。まずドイツのグル-プでは海馬について新皮質の情報処理の非特異的制御の立場から、同期シグナルをまとめ、非同期シグナルを分離する回路モデルを考案した。この仮説のもとで海馬関連部位のサブシステム(FD、CA1、CA3、中隔)の機能を情報の価値づけ対する分担として仮定することで、海馬の機能を整合的にモデル化することができた。日本では視覚皮質の活動に速いリズムを仮定し、表象をコ-ドする神経回路と概念記憶をコ-ドする神経回路という2つの回路が動的なリズム活動を持つモデルを提案した。そしてこの神経回路モデルは概念が表象に拘束を与えて意味のある図とその以外の地の部分を柔軟に分離することができることを示した。 さらに海馬と新皮質の連関の機能モデルとしてこの視覚皮質モデル海馬を統合したモデルを仮定し、海馬の活動が視覚部で知覚される情報の中でどれを記憶すべきかということを判断して、それを知覚皮質にトップダウン的に働きかけることで新しい概念を長期記憶として作ることになると考えられた。今後はこの海馬と視覚部の統合モデルについて計算機実験を進めて機能の詳細な検討を進める予定である。
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