研究課題/領域番号 |
03044076
|
研究種目 |
国際学術研究
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小嶋 祥三 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (70027499)
|
研究分担者 |
MELTZOFF And ワシントン大学, 心理学部, 教授
KUHL Patrici ワシントン大学, 音声言語聴覚学部, 教授
出口 利定 東京学芸大学, 教育学部, 助教授 (50143623)
桐谷 滋 東京大学, 医学部, 教授 (90010032)
藤田 和生 京都大学, 霊長類研究所, 助手 (80183101)
久保田 競 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (30027479)
|
研究期間 (年度) |
1991
|
研究課題ステータス |
完了 (1991年度)
|
配分額 *注記 |
1,500千円 (直接経費: 1,500千円)
1991年度: 1,500千円 (直接経費: 1,500千円)
|
キーワード | 母音 / 母音知覚 / 声音長の正規化 / プロトタイプ効果 / マグネット効果 / ヒト乳幼児 / チンパンジ- / ニホンザル |
研究概要 |
この研究ではヒトの幼児とヒト以外の霊長類の母音の知覚、とくに声道長の正規化とプロトタイプ効果を検討した。母音は一般に第1,2ホルマントによって特徴づけられる。ホルマントは声道のフィルタ-特性によって生じるエネルギ-の通過しやすい周波数帯域であり、それは舌の位置、口唇の形などによって変化する。さらにホルマントは、たとえ同一の構音動作による発話でも、声道長によって変わってくる。ヒトの声道は、男性、女性で、また成人、幼児でその長さが異なる。それゆえ同じ母音であっても発話者によってホルマントは異なる。一般に成人男性、女性、幼児の順序で、ホルマント周波数は高くなる。ホルマント周波数の絶対値で母音を判断しているならば、われわれはしばしば母音の混同を経験するはずであるが、そのようなことは少ない。それは母音の基本周波数などを手がかりにして(一般に幼児、女性では基本周波数が高い)、声道長を補正していることを示唆する。これを母音の正規化と云い、音声言語成立の前提条件をなすと考えられる。この研究では、ヒトの声道長の正規化の能力の発達的変化と、チンパンジ-,ニホンザルにおける正規化の検討を行なった。一方それぞれの母音は典型例を持つと考えられる。母音の種類は言語によって異なるので、典型(原型、プロトタイプ)が幼児期のどの時点で成立するかは、国際化が叫ばれる現在、興味深い。ヒトとチンパンジ-では発話する母音(的音声)が異なるので、母音のプロトタイプも異なることが考えられる。本研究ではその点も検討した。声道長の正規化については、[O]ー[a]の母音系列を、基本周波数などを変えて2種類合成した。一方は成人男性、一方は女性の声と判断される。被験体は成人、3ー5歳児、5ー7カ月児、チンパンジ-、ニホンザルであった。成人、3ー5歳児では母音系列をランダムに提示し、筆記、口頭、絵カ-ドで解答させた。一方5ー7カ月児では、分担者のKuhlのところで修得した頭部回転法で検討した。この方法では、母音が変化すると幼児は顔を人形の方に向け、その反応は人形が動いたり、音や光を出すことにより強化される。一種のオペラント条件づけである。チンパンジ-、ニホンザルでは母音が変化するとキイから手を離す課題(反応時間課題とよばれ、手を離す反応時間が測定される)により検討された。その結果、成人と3ー5歳児では声道長の正規化の能力がみられ、基本周波数が高くなると(女性の声)、[O]ー[a]の境界がホルマント周波数が高い方に移動した。3ー5歳児の方が移動量が多く、基本周波数の影響を受け易かった。また5名の5ー7カ月児では、正規化の能力を示すものと示さぬものがいた。実験手続きの問題もあり、被験者を増やしてさらに検討する必要がある。チンパンジ-、ニホンザルでは、検討は間接的になるが、正規化を示唆する結果を得た。 一方、プロトタイプ効果については、[u]ー[i]の母音系列を合成してチンパンジ-で検討した。チンパンジ-は[u]と聴取される音声を持つが、筆者は[i]を聴取したことはない。このような母音のレパ-トリ-の相違は、当然ヒトとチンパンジ-で異なる母音のプロトタイプを予想させる。分担者のKuhlは母音空間上で、プロトタイプの母音はそれと同一の母音と判断される範囲が、非プロトタイプの母音よりも広いことを示した(マグネット効果)。チンパンジ-においては、レパ-トリ-にある[u]に比べ[i]では、同一の母音と判断される範囲が狭いと考えられる。1頭のチンパンジ-で前述の反応時間法で、[u]ー[i]の母音系列の弁別を検討した。その結果、[u]と判断される範囲は、[i]と判断される範囲よりも広かった。これは上記の予測を裏づける結果である。この問題をKuhlはアメリカ人とスウェ-デン人の幼児で追求した。スウェ-デン語には英語にない母音([y])が[u]ー[i]の間にある。この母音のプロトタイプが、スウェ-デンの幼児にいつ成立するかを、アメリカ人の幼児との比較から検討した。方法ま前述の頭部回転法である。その結果6カ月齢のスウェ-デンの幼児が母音[y]のプロトパイプを持つことが示された。すなわち6カ月齢で母国語の影響が見られた。
|