研究分担者 |
高津 聖志 東京大学, 医科学研究所, 教授 (10107055)
奥村 康 順天堂大学, 医学部, 教授 (50009700)
谷口 維紹 大阪大学, 細胞工学センター, 教授 (50133616)
本庶 佑 京都大学, 医学部, 教授 (80090504)
笹月 健彦 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (50014121)
NISHIKAWA Shinichi Professor, Kumamoto University
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研究概要 |
1992年1月末に米国モントレ-においてアメリカ側9名,日本側7名の免疫学者が2日間にわたって,最新の成果を報告し,討論と情報交換を行った。その他に米国の若手免疫学研究者約20名が参加した。討論の中心はリンパ球の発生・分化,Tリンパ球の抗原認識,サイトカインによる免疫調節,これらの異常によっておこる免疫病等に関するものであった。抗体遺伝子の再構成を誘導する遺伝子として発見されたRAG1,RAG2を遺伝子タ-ゲッティングで消失させたマウスの作成が報告された。期待通り,リンパ球の全く存在しないマウスが作り出され,RAG1,RAG2がリンパ球系へのコミットメントに重要な役割を果していることが証明された。 主要組織適合抗原Class1には9つのアミノ酸からなるペプチドが結合し,この複合体が抗原としてTリンパ球に提示されることが証明された。このような抗原ペプチドの同定は細胞内寄生細菌やウイルスに対する有効なワクチンの開発に大きく役立つものと期待される。 細菌菌体成分等のス-パ-抗原は多くのT細胞を同時に活性化し,Toxic Shockの原因となることが明らかとされているが,ヒトにおいてはEBウィルスもス-パ-抗原として働くことが証明された。EBウィルスの感染とリウマチとの関連性が疑われているが,リウマチ等の自己免疫疾患において,このようなス-パ-抗原がTリンパ球の活性化にかかわっている可能性が示唆された。 自己抗原やス-パ-抗原はTリンパ球にアポプト-ンスを誘導し,自己反応性Tリンパ球の欠落に関与することが知られているが,抗赤血球抗体遺伝子を用いて作成されたトランスジェニックマウスにおいて自己抗原を反応するBリンパ球もアポプト-シスを起こすことが報告された。 Tリンパ球は抗原ペプチドとMHCの複合体を認識するが,Tリンパ球レセプタ-(TCR)にポイントミュ-テ-ションを導入し,TCRのどの部分が抗ペプチドやMHCとの相互作用に夫々関与しているかということが詳細に解析され,TCRーMHCー抗原ペプチド三者複合体の構造模型が提唱された。Tリンパ球はTCRによる抗原認識だけでは活性化されず,他のcoーstimulationを必要とするが,CD28分子はそのようなcoーstimulationシグナルを受け取るレセプタ-である可能性が示唆された。 リンパ球やその標的細胞上に発現される接着分子は,リンパ球の活性化や機能発現に重要な役割を担っているが,VLAー4に対する抗体が,リンパ球のホ-ミングや移植片の拒絶に影響を示すことが報告された。 ILー5やILー6の系においてユニ-クなサイトカインレセプタ-の存在が明らかにされた。即ち,これらのレセプタ-の系では,サイトカインを特異的に結合するレセプタ-と,そのレセプタ-と結合して信号を伝達する信号伝達分子の2本のポリペプチド鎖より構成されている。興味あることは,ILー5,ILー3,GMーCSFレセプタ-は同じ信号伝達分子を共有し,ILー6,LIF,Oncostatin Mも共通の信号伝達分子を持つということが明らかになったことである。この発見により,サイトカインの機能の重複性を分子のレベルで説明することが出来るようになった。更にこれらサイトカインの信号伝達分子にはチロシンキナ-ゼが会合して活性化されることも示された。 ILー6の発現を調節する転写因子(NFーIL6)は炎症にかかわると共に,ウィルス遺伝子の活性化にも関与することが示され,サイトカインと炎症,ウィルス感染のかかわりが転写因子のレベルで討論された。 Tリンパ球の認識機構からサイトカインによる免疫応答の調節が分子のレベルで解明され,多くの新しい情報が交換され討論された。
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