研究概要 |
1.CSIRO・NMLにおけるΩSI値付けおよび量子化ホ-ル抵抗測定の調査と1Ω標準抵抗器の携行:平成3年8月,研究代表者の代行永田真(学習院大学大学院自然科学研究科物理学専攻博士前期代程1年生)は,学習院大学理学部研究代表者の実験室から,貸与されていた1Ω抵抗器を航空機座席に持込み,オ-ストラリア科学技術研究庁(CSIRO)の国立計測研究所(NML)に携行し,23日間滞在して次の調査を行った.(1)1Ω標準抵抗器の製作とクロスキャパシタ-による1Ω標準抵抗器のΩSI値付け.(2)1Ω抵抗器群の相互比較.(3)(6453+4/9)ΩBuildーUP Resistorの直列ー並列組合せ抵抗の測定.(4)量子化ホ-ル抵抗測定実施状況.(5)極低温電流比較器の建設.帰途,1Ω標準抵抗器1個を航空機座席に持ち込み,学習院大学理学部内研究代表者の実験室まで携行した. 2.Small氏との学習院大学における協同研究:平成3年1月,CSIRO.NMLからインピ-ダンス・グル-プのリ-ダ-であるスモ-ル氏が来日し,2週間滞在,研究代表者の実験室にある超高精度抵抗比較測定用極低温電流比較器回路を点検し,SQUIDの磁束検出に現れる雑音となる(1)測定電流極性切り替え回路の改良,(2)測定電流増減回路の改良を行い,さらに(3)GPIB雑音の光ファイバ-ケ-ブル使用による除去を行った.その結果,1Ωと1Ωとの比較,1Ωと100Ωとの比較が,1時間の測定で精度0.004ppm以下で行うことを可能にした.また,100Ω抵抗器と量子化ホ-ル抵抗との直接比較測定が可能となった.1時間の測定における精度は0.02ppm以下である.このように,極低温電流比較器システムの性能は著しく向上したが,100Ωと100Ωとの抵抗比較測定で,1次回路と2次回路の抵抗の測定値に約0.02ppmの差が認められ,改良の余地があることが判った. 3.Ricketts氏との学習院大学における協同研究:前記スモ-ル氏との協同研究で残された課題を解決する目的で,NMLで高精度で値が判っている10kΩ抵抗器を学習院大学理学部研究代表者実験室に携行した.2週間滞在し,100Ω抵抗器と10kΩ抵抗器との比較測定等の結果,前記の測定誤差の原因は,特定の測定用ケ-ブルの絶縁抵抗の低下にあることが判った.これらの改良点を考慮に入れて,GaAs/AlGaAsヘテロ接合試料の量子数2及び4の量子化ホ-ル抵抗の測定を行った. 4.測定結果の要約:極低温電流比較器による超高精度抵抗比較測定システムを整備し,約50mAの電流を用い,1Ω対1Ωの抵抗比較を1時間内で12回行い,測定値の分散を0.004ppm以内に収めることができた.同じく,1Ω対100Ωの比較測定は,1Ω抵抗器に約50mA,100Ω抵抗器に約0.5mAの電流を用い,1Ω対1Ωの抵抗比較と同様の精度で行うことができた.さらに,100Ω抵抗器と量子化ホ-ル抵抗(量子数2と4)とを直接比較することが可能になった.試料電流が10μAで,1時間に12回の測定値の分散は0.018ppm以内であった.GaAs/AlGaAsヘテロ構造試料を用い,量子数2に対しては,温度1.5Kで,磁場9.5Tから10.2Tまでの範囲で5点の測定を行った結果,プラト-内の磁場4点では,各々の測定値は0.018ppm以下の精度で,中心値の分散は0.0045ppmであった.その値は,{RH(2)×2/25412.8ΩSIーNML}-1=(0.38(+0.03)±0.01)ppmであった.ここで,(+0.03ppm)は,現在検討中の系統誤差である.この値は,1988年に報告されたCSIRO値と誤差範囲で一致する.量子数4の量子化ホ-ル抵抗の測定は,温度0.5K,磁場4.9Tで行った.その結果は量子数2の値と誤差の範囲では一致するが,中心値の平均値では,量子数4のホ-ル抵抗値は量子数2の値より0.01ppm大きい.
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