研究分担者 |
上田 陽一 産業医科大学, 医学部, 助手 (10232745)
稲永 清敏 産業医科大学, 医学部, 助教授 (90131903)
MASSAKO KADE 米国, Univ Texas Medical Branch, 教授
河南 洋 宮崎医科大学, 医学部, 教授 (00049058)
河田 光博 京都府立医科大学, 医学部, 教授 (60112512)
KIYOMI KOIZU 米国, ニューヨーク州立大学・ブルックリン健康科学センター, 教授
KOIZUMI Kiyomi Professor State University of New York Health Science Center at Brooklyn
KADEKARO Masako Associate Professor University of Texas Medical Branch at Galveston
DREIFUSS J.J Centre Medical Univ(スイス), 教授
KADEKARO Mas Univ.Texas Medical Branch(米国), 準教授
KOIZUMI Kiyo ニューヨーク州市大学(米国), 教授
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研究概要 |
遺伝性多飲マウスは多飲(20-60ml/日)・多尿を特徴として1950年代に発見された。本研究ではこの遺伝性多飲マウスを用いて,体液の中枢性調節および飲水行動発現機構の解明を目的した。以下の点について2年間にわたり国際的な共同研究を展開した。 (1)組織学的検索(山下,河田,小泉,Kadekaro)(a)免疫組織化学染色法を用いて,脳内(特に視床下部内)の神経ペプチドの存在様式について検討した。その結果,遺伝性多飲マウスでは正常マウスに比べて下垂体後葉ホルモン含有ニューロン(バゾプレッシン(AVP)・オキシトシン(OXT))の細胞数が視床下部室傍核(PVN)および視索上核(SON)で有意に多かった。また,室傍核の前腹側部に下垂後葉ホルモンを含む細胞が多数存在していた。視交叉上核(SCN)では逆に少なかった。遺伝性多飲マウスで無ナトリウム食によりOXTの染色性は著明に減少した。SCNに豊富に存在するVIPの存在様式に差はなかった。GABAの存在様式にも差はなかった。(b)神経細胞の活動の指標としてimmediate-early geneの代表的なc-fos遺伝子産物であるFOS蚕白の発現様式を正常状態および脱水時(24時間および48時間)で比較したところ遺伝性多飲マウスでは正常マウスに比べて脳室周囲器官(終板器官(OVLT,AV3V),脳弓下器官(SFO)および視束前野)で著明に増加した。PVN,SONでの発現パターンは正常マウスと類似していた。(c)In situ hybridization法によりAVPmRNAの発現の様子とその局在を調べたところ,AVPの局在と一致しており,多飲マウスでは正常マウスに比べて強いシグナルが検出された。また,Northern blot法により,視床下部のTotel RNAからAVPmRNAを比較したところ遺伝性多飲マウスでは正常マウスと比べて約4倍の量があった。分子量は変わらなかった。OXTmRNAは類似してた。(d)2-デオキシグルコース(2DG)法を用いて,遺伝性多飲マウスの脳内グルコース代謝を調べたところ,下垂体後葉のグルコース利用率が著明に増加,SFO,SCNおよび外側視束前野では減少していた。 (2)飲水行動の解析(山下,河南,小泉)(a)収縮期血圧(102±8mmHg),心拍数及び体温は正常マウスと変わらなかった。(b)多飲マウスではアンギオテンシンIIの桔抗薬であるカプトプリルの皮下投与により20-30%飲水量が減少(投与後6時間以内)したが,正常マウスでは影響なかった。また,サララシン(AII inhibitor)の脳室内投与でも上記と同様に飲水量が減少した。ところが正常マウスで飲水を惹起するAIIの脳室内投与では飲水量に変化なかった。血中のレニン活性および脳内AIIレベルは差はなかった。(c)オピオイド桔抗薬のNaltrexone皮下および脳室内投与により暗期初期の多飲が減弱した(70%)。κ-agonistであるnor-BNIの脳室内投与により摂食に影響なく飲水を抑制した(70%)。(d)遺伝性多飲マウスの側脳室内にAVPの抗血清(Iμl)を微量注入すると注入前日の飲水量37.9±1.5ml(平均±材準誤差)が20.9±4.6mlになり,有意に減少した。生理食塩水を投与した場合は変化なかった。次にAVP桔抗薬である[Pmpl,Tyr(Me)2]-Arg8-Vasopressin(3-300ng)を同様に投与すると用量によらず,投与後24時間で10-14mlと生理食塩水投与群(34.2±5.9ml)に比べて有意に減少し,正常マウスでは10日すぎにわずかに減少したのみで,摂食量はかわらなかった。 (3)スライス標本を用いた解析(山下,稲永,小泉,Dreifuss)(a)脳スライス標本を作製してSFO,第3脳室前腹壁部(AV3V)及びおよびAV3VニューロンのAIIに対し感受性は変わらなかったが,反応するニューロンの数の比率が少なかった。AV3VとPVNのピオイドに対する反応性は,正常マウスに比べてμ-,κ-agonistの反応性が低下していた。AV3VニューロンでNaイオンに対する反応性を調べたが正常マウスとは差がなかった。(b)室傍核および視索上核を含む脳スライス標本の灌流液中のAVPを測定したところ,遺伝性多飲マウスの場合は基礎レベルの量(30pg/ml vs 3pg/ml)が非常に高かった。 以上の結果より,遺伝性多飲マウスでは脳内AVP,OXTの過剰,アンギオテンシン系,オピオイド系(特にκ-)およびNaに対する反応性の異常が示唆された。
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