研究課題/領域番号 |
03044144
|
研究種目 |
国際学術研究
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 国立歴史民俗博物館 |
研究代表者 |
杉山 晋作 国立歴史民俗博物館, 考古研究部, 助教授 (30150022)
|
研究分担者 |
李 賢珠 釜山大学校, 博物館, 研究員
鄭 光龍 国立文化財研究所, 保存科学研究室(韓国), 研究員
姜 炯台 国立文化財研究所, 保存科学研究室(韓国), 専門委員
齋藤 努 国立歴史民俗博物館, 情報資料研究部, 助手 (50205663)
田口 勇 国立歴史民俗博物館, 情報資料研究部, 教授 (50192159)
KANG Hyung Tae National Research Institute of Cultural Properties, Conservation Scientist
CHUNG Kwang Ryong National Research Institute of Cultural Properties, Conservation Scientist
LEE Hyung Joo Museum of Pusan University, Curator
|
研究期間 (年度) |
1991
|
研究課題ステータス |
完了 (1991年度)
|
配分額 *注記 |
1,500千円 (直接経費: 1,500千円)
1991年度: 1,500千円 (直接経費: 1,500千円)
|
キーワード | 古墳 / 古代遺物 / 鍍金技術 / アマルガム / 金 / 銀 / 銅 / アンチモン |
研究概要 |
本研究は,西暦5世紀から7世紀までの間、日本と韓国において使用された金銀装飾の非鉄金属製品とくに金銅製品の成分組成を科学分析することによって、古代日韓におけるそれら製品の製作技法および技術交流の実態を把握しようとしたものである。 韓国側では国立文化財研究所保存科学研究室が、三国時代新羅国の王陵とされる皇南大塚(5世紀後半)北墳および南墳出土品のうちの装身具・武具・馬具から分析試料を採取し、また、釜山大学校博物館が同時代伽〓地域の王墓級古墳である大成洞古墳群や玉田古墳群(3世紀後半〜5世紀)出土品のうちの装身具・馬具から分析試料を採取した。いずれも、学術的には未報告であるが、それらが有する歴史的意義の重要性は日本においても最近報道された貴重な資料である。 日本側では国立歴史民俗博物館が、千葉県蕪木5号墳(6世紀)出土の金銅製巾着形容器や金銅装小刀など、古墳時代の前方後円墳に副葬された製品から分析試料を採取した。これらは、日本において極めて類例の少ない形態を呈しており、その製作技法や製作地の解明が課題となっていた資料である。 これらの資料の成分組成分析については、日本の国立歴史民俗博物館に設置されている元素分布分析ソフトを併用したエネルギ-分散型X線マイクロアナライザ-付電子顕微鏡を用いた。その分析機器から得られた結果は次のとおりである。 1.金銅製品 (1)金膜について その厚さは、2〜10ミクロンの範囲にあり、ほぼ一定している。金膜は、高純度の金であることが多いが、銀を少量混える資料もある。今回の対象資料に限っては、韓国では新羅の王陵への副葬品は金の純度が高く、伽〓地域の古墳への副葬品は金に銀を混えることが多いという地域的傾向を指摘できよう。また、金膜中に水銀を含んでいる資料がほとんどあるので、それらは水銀中に金の薄片を溶融させた金アマルガムを塗布して金膜を固着するアマルガム鍍金法によったものであることを知られた。 (2)銅地について 金銅製品の基礎材である銅の地板のついては、青銅ではなく、純度の高い銅を用いている。しかし、この銅地中には少量ながら鉛とアンチモンからなる小粒が存在し、資料によっては鉛とアンチモンの構成が鉛で18〜98%、アンチモンで2〜82%と差異を示すことが判明した。しかも、資料断面に見られるその小粒の分布状態から、分析対象資料の多くが鍛造されたものであることも明らかとなった。つまり、金銅製品の成形には、一部の製品や部品が鋳造技法によるほか、多くの製品が鍛造技法によったとする考古学的見解を裏付ける結果となった。なお、銅地中にも銀を含む資料が存在する。 2.鉄地金装飾製品 (1)金膜について 厚さは金銅製品の金膜と大差なく、また、高純度の金であったり銀を混えることも同様である。一方で、金膜中に水銀が含まれていた点は予想外の結果であった。つまり、理論的には、鉄地にアマルガム鍍金ができないとされていたことに対して、アマルガム鍍金を施した実例が存在することになった。その技法は、地板の分析によって理解できることとなった。 (2)鉄地板の表面について 鉄地板の表面には、金銅製品の銅地中に含まれていた鉛とアンチモンからなる構成物が層状に存在している事実を認めた。この例は鉄地にアマルガム鍍金を可能にするために施された工夫であり、従来の学説を訂生すべき注目される新例である。 以上のほか、日本古墳出土の複数の耳環を分析することによって当初の2個1対の組合せを復元できた成果もある。 今後もこの比較研究を継続することによって、製作工程や製作地あるいは製作技術の交流の実態が明らかになろう。その成度は、古代日韓における人の移動のみにとどまらず、政治や文化の交流解明に寄与すると予測される。
|