研究課題/領域番号 |
03044150
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 岡崎国立共同研究機構 |
研究代表者 |
江口 吾朗 岡崎国立共同研究機構, 基礎生物学研究所, 教授 (80022581)
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研究分担者 |
坂野 仁 カリフォルニア大学, バークレー校・分子細胞生物学部, 準教授
名川 文清 岡崎国立共同研究機構, 基礎生物学研究所, 助手 (10241233)
餅井 真 岡崎国立共同研究機構, 基礎生物学研究所, 助手 (90202358)
児玉 隆治 岡崎国立共同研究機構, 基礎生物学研究所, 助教授 (90161950)
DAVIS DONALD カリフォルニア大学, バークレイ校・分子細胞生物学部, 研究員
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研究期間 (年度) |
1991 – 1993
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研究課題ステータス |
完了 (1993年度)
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配分額 *注記 |
9,000千円 (直接経費: 9,000千円)
1993年度: 3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
1992年度: 3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
1991年度: 3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
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キーワード | 細胞分化 / 分化決定 / 分化転換 / 多分化能 / 調節遺伝子 / 色素上皮細胞 / 中枢神経系 / 成長因子 / レンズ細胞 / 脱分化 / 再分化 / 分化の多能性 / 細胞外基質 / 再文化 |
研究概要 |
本国際共同研究にあっては、研究計画を実施する上でより研究環境の整った岡崎国立共同研究機構・基礎生物学研究所を主たる研究の場とし、相手方研究者を可能な限り頻度高く招へいして、実質的な共同研究活動を展開した。 本研究では、多分化能を有する未分化細胞の分化の方向性がいかなる遺伝子機序によって制御されているかを明らかにするための基礎を確立しようとした。この目的を達成するために、脊椎動物の色素上皮細胞のレンズ細胞への分化転換系と哺乳動物の中枢神経の発生系を主要な研究対象とし、平成3、4両年度内に大略以下のような成果を蓄積することができた。 ○ニワトリ胚色素上皮細胞について、その分化状態の維持あるいはレンズ細胞への分化転換の調節に関与すると想定される2種の遺伝子、pP344遺伝子とpP64遺伝子を單離同定し、それぞれのcDNAの構造を決定すると共に、塩基配列を詳細に解析することによって、pP344遺伝子は蛋白質分解酵素阻害活性をもつ蛋白質をコードし、pP64遺伝子はTGF_β-結合蛋白質をコードすると推定することができた。また、pP64遺伝子はalternative splicingによって5.0kbmRNAと6.0kbmRNAとの2種のmRNAを産生することを明らかにした。一方、○免疫担当細胞の分化過程で知られているような遺伝子の再構成が、哺乳類の中枢神経系の発生過程でもおこっていることを想定させる事実を、マウスについて示した。 以上のような成果を踏え、平成5年度では、研究代表者の総括の下に、各分担研究者が常に有機的協力関係を維持しつつ、研究計画に則して共同研究及び共同調査を鋭意展開し、下記の成果を納めることができた。 1.色素上皮細胞の分化転換の制御にかかわる遺伝子 色素上皮細胞は特定の条件下で多能的脱分化状態を経てレンズ細胞に分化転換する。pP344遺伝子は網膜色素上皮細胞に特異的な遺伝子であり、その産物はpP344cDNAの塩基配列から推定されたごとく、蛋白質分解酵素阻害活性を有する蛋白質であることが、ニワトリ胚色素上皮細胞を用いての解析により明らかとなった。次に、この遺伝子は上記脱分化状態では不活性化されており、その状態からの再分化に際して改めて活性化され、その産物は生体内では、細胞外基質の蛋白質分解酵素による分解を抑制することによって、色素上皮細胞の分化状態及び機能発現の維持に深く関与していることが示唆された。さらに、pP344遺伝子は、網膜色素上皮と発生起源の同一な虹彩及び毛様体色素上皮では全く発現されておらず、従来知られていない網膜色素上皮細胞に特異的な遺伝子であることも明らかとなった。一方、pP64遺伝子は前述のごとく5.0kbmRNAと6.0kbmRNAとの2種の転写産物を産生する。分化し安定化した色素上皮細胞は前者を主要産物とし後者をも産生するが、多能的脱分化細胞及びレンズ細胞は5.0kbmRNAを産生せず、6.0kbmRNAのみを産生する。また、両mRNAの最終産物は共にTGF_β-結合蛋白質であるが、5.0kbmRNAの産物は細胞外に分泌され、6.0kbmRNAの産物は細胞外基質と結合する。さらに、色素上皮細胞、多能的脱分化細胞及びレンズ細胞は、それぞれTGF_βを産生する。このように、pP64遺伝子の2種類の最終産物は、それぞれにTGF_βの機能を修飾することによって、色素上皮細胞及び同細胞由来の多能的脱分化細胞の分化状態の制御に深く関与していることが明らかにされた。 2.中枢神経系の発生における遺伝子再構成の可能性についての検討 免疫系で見られた遺伝子再構成が神経系でも認められるかどうかについて、マウスを用い特に類似した遺伝子を多数含む多重遺伝子系に焦点を紋り、検討をおこなってきた。その結果、少くとも脳領域の発生過程で、DNA組み換えや遺伝子変換がおこっている可能性を実験的に示唆することができた。また、嗅覚系について同様な検討を進め、においの分子の識別を担う受容体の遺伝子をクローン化し、それらが数百の遺伝子からなる多重遺伝子系を構成していることを明らかにしつつある。 これらの成果はいずれも、細胞の分化決定の遺伝子的機構を解明する上で、非常に貴重な基礎的知見と位置付けることができ、本国際共同研究の所期の目的はほゞ達成されたと考える。
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