研究概要 |
スウェ-デンは,人口の高齢化がかなり早期に見られ,1990年には,65才以上の高齢者人口比率が8.4%に達していた。しかしながら,その後の上昇カ-ブはゆるやかで,15%に達したのは1970年になってからである。 スウェ-デンの高齢者福祉の重要な要素の一つとして,自立を可能にする健康維持振興対策は,1945年頃から民間組織を中心として研究され,高齢者人口のゆるやかな上昇の中で,次第に官民一体とする制度を確立し振興されてきた。特に,高齢者人口比率が15%に達した1970年代は,今後の高齢化社会にどの様に対応すべきか,人間にとって社会的条件はいかにあるべきか,またそれに関する権利をどう考えるべきかなど,いくつかの議論が公共および民間の場で交わされるようになった時期である。少くとも1975年までに公表され,国民の基本的合意を得た高齢者福祉の原則は,常態化,総合的人間観,自己決定,影響と参加,適切な管理にもとずく活動の5原則であった。これらの原則を達成するためには,高齢者の精神的および身体的な健康の重要性を尊重する施策がなされ,しかもどの様な健康レベルにも対応でき,常態化に限りなく焦点を定めていくケアが必要となる。 1971年にスウェ-デンで制度化された高齢者体操(ペルショナ-ズジムナスティ-ク,略称PG)と高齢者軽運動(ペルショナ-ズモチュ-ン,略称PM)は,既述の高齢者福祉の原則を達成するために,大きな機能を発揮すると予測された。 PGおよびPMの目的は,高齢者の運動機能障害と成人病の予防のために運動の習慣化をはかり,グル-プ活動によって共に健康を保ちつつある喜びを認識し,他との交流によって弧独感におち入ることを防止し,各人各様の生きがいに結びつく行動意欲と実踐の可能性に機能することであるといえよう。 PGとPMは,【figure】民間組織,国および地方自治体の協同体制を確立させた後,1985年以降は図1のように組織化され,それぞれの役割を遂行している。 また,この体制のもとで実際に参加する高齢者は,居住コム-ン(地方自治体の単位)で開設されているいくつかのプログラムの中から,自己の健康レベルに対応するグル-プ活動を選択し,可能な限り継続することができる。 本研究では,PGのグル-プ活動に参加している高齢者の生活構造と意識,体力,日常生活の歩行量などの調査を1991年8月30日〜9月20日に実施し,ひとり暮しの高齢者が,自立した生活を維持するために,PGの継続がいかに重要であるかを知る手がかりを得ることができた。 そして,わが国の福祉における高齢者の健康づくりモデルとしては,(財)武蔵野市福祉公社が,高齢者の生きがいと健康づくり推進事業の一環として1989年11月に開設した「地域健康クラブ」を対象とした。「地域健康クラブ」は,高齢者が週一回の運動をコミュニティセンタ-を活動の場として継続するものである。開設初年度は4ヶ所であったが,1990年度8,1991年度12,1992年度15コミュニティセンタ-とその規模を拡大させ発展した。この要因として,地方自治体,リ-ダ-,コミュニティ-センタ-運営主体である地域住民の協同体制の確立があげられるが,なんといっても大きいのは高齢者の健康維持ニ-ズであろう。本研究代表者は,1990年5月〜1992年2月,「地域健康クラブ」での継続活動の効果を身体的,精神的また社会的な観点から調査してきた。 本研究は,スウェ-デンとわが国の高齢者福祉における生きがいと健康づくりの現状モデルを基礎として,今後のわが国に必要とされる適切なモデル作成を含めた論文を,1992年中に公表する。
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