研究概要 |
プテリン誘導体補酵素類は種々の重要な生理活性や薬理活性を示すものが数多く知られているが,天然型のものは一般的に不安定な化合物で,生体内で活性を示す必要部位への移動の点で,種々の難点があることが指摘されてきた.そこでこれらの補酵素類をより安定化かつ効果的な生理活性を示す化合物への化学変換を系統的に検討する目的で,まずビオプテリンの側鎖水酸基の選択的グリコシル化反応について研究した.一方,ビオプテリングリコシドは天然にも数種が発見されており,生理活性面など種々の観点から興味の持たれている化合物群であるが,その構造及び効率的な合成法は未だ十分に確立されていないので,この点もあわせて検討した. 1.ビオプテリンへの保護基導入. ビオプテリンの活性N^2及びN(3)位を保護し,無極性有機溶媒への溶解度を増大させるため,DMFジエチルアセタールを作用させるとN^2-(N,N-ジメチルアミノ)メチレン-ビオプテリンが得られ,次いで無水酢酸/ピリジンで1',2'-O-をアセチル化の後,p-ニトロフェネチル(NPE)アルコールと光延反応により,NPE基をN(3)に導入した;NPE基は最初O^4位と思われたが,UV-NMRスペクトル解析によりN(3)位と判明した.この化合物をメタノールで処理することにより,1',2'-O-位がフリーのジオールが得られた.この手法でNPEアルコールの代わりにメタノールを用い,光延反応の後,脱アセチル化,次いでアンモニア水で処理することにより,海洋花虫類から単離された天然物N(3)-メチル-ビオプテリンが初めて合成できた.N(3)位の保護基としてはNPE以外にも,2,4-ジニトロフェネチル基その他を同様に調製して検討を続けている. 一方ビオプテリンのトリアセチル体とメタノール及びNPEアルコールでは対応するO^4-メチル体及びO^4-NPE誘導体が得られた.これらは,メタノール中トリエチルアミンで処理することにより,O^4-メチルおよびO^4-NPE-ビオプテリンに高収率で変換された.さらにこれらは,アンモニア水と室温で処理することによりアミノビオプテリンを与えた.このような興味ある選択的N(3)vs.O^4アルキル化の条件,反応機構については現在さらに検討を進めている. 2.ビオプテリンのD-リボシル化. 上記のN^2-(N,N-ジメチルアミノ)メチレン-3-NPE-ビオプテリンをHMSDで処理し,1',2'-O-ビス(トリメチルシリル)誘導体とした後,ジクロロメタン中で塩化スズ(IV)存在下,1-O-アセチル-2,3,5-トリ-O-ベンゾイル-β-D-リボフラノースと反応させて,対応する2'-O-β-D-リボシル体及び1',2'-ジ-O-β-D-リボシル体を得た.これらの生成物の比は,ドナー糖の等量調節によって制御した.次いで,DBUによるNPE基の脱保護,さらにベンゾイル基及びジメチルアミノメチレン基の脱保護により,ビオプテリン-1'-O-モノ-及び1',2'-O-ジ-リボフラノシドが得られた.現在これらの合成ルートの各段階の収率向上も検討している. 3.ビオプテリンのD-グルコシル化. 上記1',2'-O-ビス(トリメチルシリル)誘導体を,ジクロロメタン中で塩化スズ(IV)存在下,2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-1-ブロモ-α-D-グルコピラノースと反応させることにより,対応する1'-O-及び2'-O-β-D-グルコシル体を得た.グルコシルドナーを2等量用いても1',2'-ジ-O-グルコシル体は生成しなかった.グリコシル化反応の活性化試薬として,トリフロオメタンスルホン酸銀(I)を用いた場合も同様に,グルコシル体が高収率で得られた.現在,脱保護によるビオプテリングルコシドへの変換を検討している. 4.その他. これらの合成プテリン誘導体について,詳細な物性・化学反応性・生理活性・薬理活性を検討中である.さらに,還元型ビオプテリン及びネオプテリンその他の天然型プテリジン類について,前述の手法によるグリコシル化を引き続き検討予定である.
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