研究概要 |
坂本らは10年程前から低線量全身照射による制癌効果の研究を行ってきている。その結果は10ラド或いは15ラドの全身照射をして,照射後6〜15時間の間に腫瘍細胞の移植をすると腫瘍細胞の生着率が低下すること,次に担癌マウスに10〜15ラドの全身照射後12時間目に腫瘍への局所照射を行うと腫瘍細胞の致死効果が高まり,腫瘍の成長遅延,治癒効果等も増強される事が判った。一方,このような全身照射は転移抑制にも効果があることが動物実験で示された。そこで,本研究では,全身照射の効果が種々の他のエイジェント,例えばBRMと称される薬剤等との併用によって更に増強されるか否かを動物実験によって研究を進める事,悪性リンパ腫の新鮮例に対する全身照射の効果に就いて臨床的な研究を更に進めると共に,固形腫瘍に対する全身照射と局所照射の併用による制癌効果の臨床的検討をする事を目的とした。先ず,OK432と全身照射の併用効果が癌転移に対してどの様な効果を示すかをマイトジェン応答によって調べた所OK432を全身照射の二日前に投与した場合に相乘的な効果がある事が示唆された。これは人工転移と自然転移の双方の実験系で示された。また15ラドの全身照射単独の場合にはマイトジェン応答の増加は認められなかった。これらの事からマイトジェン応答の増加は,少なくとも,OK432と15ラドの全身照射の併用をした場合に,転移抑制の重要な指標の一つであろうと考えられる。臨床的研究では,悪性リンパ腫の新鮮例について,全身照射と局所照射の併用により従来の結果より優れた治療成績を示唆するデ-タが得られているが,結論を出すにはもっと長い観察期間と更に症例を重ねる必要がある。固形腫瘍に対する効果の研究は乳癌,肺癌,食道癌,子宮癌などについてその効果を検討中であるが,まだ結論を出すにはもう少し時間が必要である。
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