研究概要 |
長崎県では妊婦の抗HTLVー1抗体スクリ-ニングは80%以上の実施率で行われていると推定され,抗体陽性者の90%近くは人工栄養哺育を選択している.人工栄養哺育でも少数例の感染を認めるが,感染したと推定されるものの大部分は生後12ヵ月の時点で抗体陽性となり,少なくとも,統計上は生後12ヵ月の時点の抗体検査で母子感染を判定できることが分った.ただし,12ヵ月以後抗体が陰性化する例が少数あることからすると,12ヵ月の時点でも母親からの移行抗体が残存する例も少数あるようにみえる.このようにして判定した母乳以外の母子感染率は約3%と推定され,母乳哺育による感染率約20%に比較して明らかに減少していた. 残った3%の母子感染の感染経路を明らかにする目的で,一條等は臍帯血のPCRを行い,約7%にHTLVー1遺伝子を認めることから,子宮内感染の可能性を報告したが(Saito et al.,1990),本年度の日野等の検討によれば,さらに感度をあげたPCRによって約3%にHTLVー1遺伝子を認めるものの,臍帯血のPCR陽性は感染の指標とは考えにくいことが分った(Kawase et al.,submitted to JJCR).これらの結果はまだ検討の余地は残るが,母乳以外の母子感染の大部分はおそらく周産期感染によるものであると思わせる. すなわち,母乳哺育回避によるHTLVー1の地域内流行遮断は安全に目的を達成できるみとうしがたった.しかしながら,母乳以外の代替経路を解明し,これらの介入試験による長期的効果等をみきわめるためには,さらに長期間の追跡調査を続ける必要がある.
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