研究概要 |
当研究室では、これまで、紫外線誘発DNA損傷を特異的に認識するモノクロ-ナル抗体の樹立を行ない、チミン二量体(TDMー1,2,3)、(6ー4)光産物(64Mー1,2,3,4,5)、Dewar型光産物(DEMー1)の各損傷に対する9種のモノクロ-ナル抗体の樹立に成功した(Mori et al.,1988;Mizuno et al.,1991;Mori et al.,1991;Matsunaga et al.,投稿中)。本研究では、これらの抗体の損傷特異性を利用して、ヒトDNA修復機構における損傷認識ステップの解析を行なった。1)まず、DNA修復過程をより分子的に解析するために、Woodら(1988)により樹立された試験管内修復系を導入し、上記の抗体を併用することにより、修復合成に加えて損傷除去も追跡できる系を確立した。この系において、チミン二量体の除去に伴う修復合成のパッチサイズは、約20塩基程度であることが明らかとなった。2)抗DNA損傷モノクロ-ナル抗体と細胞内DNA損傷結合因子は、DNA損傷結合能という共通の性質を持つことから、以下の解析を行なった。a)抗DNA損傷抗体と紫外線照射DNAとの結合は、HeLa細胞の粗抽出液により濃度依存的に阻害された。b)試験管内修復系に、抗DNA損傷抗体を添加すると、修復反応が阻害された。c)ゲルシフト法において、抗DNA損傷抗体ならびに細胞粗抽出液とも、バンドのシフトが観察されたが、その移動度は異なっていた。以上の結果より、抗DNA損傷モノクロ-ナル抗体競合法は、細胞内DNA損傷結合因子の解析、ならびにその分離・精製に有用であることが示された。3)抗体のパラト-プに対する抗イディオタイプ抗体は、元の抗原と類似した構造をとることが知られており、抗DNA損傷モノクロ-ナル抗体に対する抗イディオタイプ抗体を樹立するプロジェクトに着手した。現在、64Mー2抗体と紫外線照射DNAとの結合を阻害する抗体を産生するハイブリド-マ2種を得ており、クロ-ニングを行なっている。最終的に、アフィニテイ-クロマトグラフイ-法を駆使して、細胞内DNA損傷結合因子の分離を目指したい。
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