胆汁を含む十二指腸液の胃癌発生について実験的に検討した。使用した動物はラットとビ-グル犬で、1)十二指腸上部と空腸上部を切断の後、十二指腸肛門側断端を盲端とし、空腸口側断端を胃体部に吻合し、十二指腸口側断端と空腸肛門側断端と吻合する(胆汁を含む十二指腸液が胃体部に流入し、胃内容は幽門、十二指腸から空腸へ排出される)、2)空腸上部を切断の後、その口側断端を盲端とし、空腸肛門側断端を胃体部に吻合する(胆汁は十二指腸から胃に逆流し、胃内容は胃体部から空腸へ排出される)、2種類の手術を施行し術後75週と100週で胃癌の発生率と癌の特性を調べた。75週と100週での胃癌の発生率は1の手術で43%、2の手術で68%で、癌は1の手術では胃体部吻合部、2の手術では幽門輪に近い部位に発生した。癌の組織型(腺癌)は1群と2群で差はなく、胃癌は濃厚な胆汁に曝される部位に生じていた。胆汁を含む十二指腸液の逆流で誘発した腫瘍の特性を、その浸潤性、ヌ-ドラットへの可移植性とrasの発現から調べてみた。その結果、術後100週飼育した2群の20匹のラットのうち3例に他臓器への浸潤癌を認めた。3例の癌をヌ-ドラットに移植したが、生着をみなかった。3例の腫瘍でrasの発現をp21に対する免疫組織化学で調べると、2例(66%)に発現をみた。これらの結果から、この腫瘍が悪性であることが確かめられた。ビ-グル犬2頭に1の手術、3頭に2の手術を施行し、現在経過観察をしているが、胆汁に曝される胃粘膜に前癌病変といわれる嚢胞状過形成性腺管が術後50週と75週に観察されている(犬についてはまだ癌の発生をみていない)。さらに、今年度は、十二指腸液に流入する胆汁と膵液を分離する手術を行い、それぞれの胃癌発生の有無を調べる実験と、胆汁を含む十二指腸液をラットの前胃に流入させ、前胃(ヒトの食道に相当)に癌発生について調べる実験を行っている。
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