研究概要 |
細胞の放射線感受性に関するパラメ-タ-のうち,線量生存率曲線におけるα値は大変重要である。なぜならば、α値は細胞のおかれた状態に余り依存しない、修復し難い放射線損傷を表現しているからである。また臨床における慣用分割照射ではα値の大小が腫瘍の最終反応を決めると考えられているからである。そこで、このα値を簡便、かつ短時間で推定する方法を研究した。照射後の細胞にcytochalasinB2μg/mlを加え、細胞一周期の間培養すると、分裂期を通過した細胞は2核細胞として容易に同定できる。蛍光顕微鏡観察下にmicronucleusや核の不均等分裂等の異常を伴わない、正常核分裂細胞の比率を求め、片対数グラフ上にプロットし、線量効果関係を求めると、広い線量域(0ー10Gy)でほぼ直線になった(γ>0.98)。細胞の放射線感受性をコロニ-形成法と本法で調べ、そのデ-タを各々、ーlnSF=αD+βD^2,ーlnF=aD+bのモデルで解析し、α値とa値の一致の程度を検討した。SCCVII,EMT6/Ku,RIFー1,Vー79,CHOの諸細胞について検討すると、=ー789×10^<ー6>+1.04α(γ=0.982)となり、a値はほぼα値に等しいと言える事が解った。また照射線量率を変化させてa値に対する影響をSCCVII,RIFー1について調べると、a値の変化は小さかった。一方、β値の要素をも含むmicronucleus頻度に対する線量率変化の影響は大きかった。そこで、この方法で14症例のヒト食道癌細胞(手術材料より培養)における推定の値の分布を調べた。病理組織型の分布は高分化型6例,中分化型4例,低分化型4例である。中分化型4例はいずれもの値が小さく,高分化型,低分化型は共にα値の大きいものから、小さいものまで比較的幅広い分布を示した。本法は正常細胞(線維芽細胞)のα値の個体差を研究する手段にもなると考えられ、今後その方向へも研究を発展させる予定である。
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