研究概要 |
生体の臓器に直接癌遺伝子を導入し発現させ,その時におこる変化を分子レベルでとらえ,臓器での発癌・癌抑制機構の解明を目的とし以下の研究を行なった。方法は既に報告したHVJーliposome法で,導入遺伝子は発癌ウイルスのDNAを用いた。 (1)ヒトB型肝炎ウイルス(HBV)のS遺伝子を成育ラットの肝臓に導入した。 MajorSとLargeS DNAを導入しβーactin promoterのもとで発現させると,抗原は肝細胞表面に出現した。導入4日目以降,S抗原に対する抗体が血中に分泌された。肝臓の病理変化は1週間後には肝細胞の空胞変性,2週後には肝小葉内のリンパ球浸潤と巣状壊死が認められた。4週後にはグリソン鞘炎の像がみられた。これはヒトB型肝炎の急性期の像とほほ一致するものなので,肝炎後の組織修復とその後におこる変化を現在経時的に観察している。 (2)SV40のlargeT抗原遺伝子(SVT)の導入と発現 SVTをβーactin promoterのもとで強力に発現させると培養細胞を容易に形質転換できる。このDNAをHVJーliposome法によりラットの門脈或いは肝臓被膜下に注入した。導入DNAは肝細胞のゲノムDNAには組み込まれないが肝細胞の核内に約10日間在存する。経時的に肝臓の凍結切片を作製し,T抗原の発現と肝細胞の変化を観察した。1〜2日目には一部の肝細胞の核にT抗原の発現を認めた。3〜5日目には肝細胞の核が崩壊し細胞質内に飛散し,正常な形態を保つ核は少なくなる。5〜10日目には,壊死に陥った部位がいくつか認められた。次に部分肝切除を施行し,残存肝小葉にSVTを導入した。施行した5例のうち2例に2週後の肝臓に小結節が数個認められ,3週後にはそのうちの1例に0.5×1cmのTumorが形成された。
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