研究概要 |
成長因子やその受容体遺伝子は正常細胞の増殖や分化のみならず,これらの遺伝子の発現の変調が,発癌に伴う細胞増殖異常に深く係わっている。ヒトグリオ-マや骨肉腫における構成的PDGF産生およびその受容体の慢性的活性化がこれらの腫瘍細胞の増殖促進に関与していることをこれまでに報告してきた。これらの腫瘍細胞におけるPDGR受容体の発現調節が,正常細胞における調節と異なるかどうかを明らかにすることは大へん重要である。2種類のPDGF受容体(α型およびβ型)遺伝子は細胞特異的にそれぞれ異なった発現調節を受けていることを明らかにした。新しく見い出されたα型受容体のみが独立して種々の生物学的機能を誘導することができるが,グリア前駆細胞においてはFGFがα型受容体を特異的に高発現しうる様に,骨芽細胞においてはインタ-ロイキン1,EGF,レチノイン酸がα型受容体を転写レベルで特異的に高発現させた。その結果これらの液性因子が骨芽細胞のPDGFによる生物学的反応性を相乗的に亢進しうることが明らかとなった。またこのα型PDGF受容体の遺伝子異常が突然変異マウスであるPatchマウスに認められることを見い出した。Phホモ胎児線維芽細胞を培養し、α型受容体遺伝子発現を検討したところ蛋白レベルでの発現は認められなかった。またPDGFーAAによるDNA合成能および細胞遊走能の欠落が見られた。ヒトPDGF受容体チロシンキナ-ゼ領域をプロ-ブとしてショウジョウバエ遺伝子ライブラリ-をスクリ-ニングし,3種類のキナ-ゼコンセンサス配列を持つ遺伝子を単離した。これらは唾腺染色体地図より,64B,49F,90Eにマップされる未知のキナ-ゼである。90Eの遺伝子産物は,新しいFGF受容体と考えられ,複数の転写産物が初期発生より成虫まで発現していることが明らかとなった。
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