研究概要 |
絨毛癌抑制遺伝子の存在する染色体を同定するために、絨毛癌CCI細胞へ微小核融合に基づく正常ヒト染色体の単一移入を行い、融合細胞における形質発現の変化を解析した。ヒト正常染色体を単一で保有するマウスA9細胞とのCCI細胞間で微小核融合を行った結果、1,2,6,7,9,11番染色体単一移入微小核融合クロ-ンを計27クロ-ン得ることができた。1,2,6,9,11番染色体移入クロ-ンの腫瘍形質は、親細胞との間に顕著な差異を認めなかった。しかし7番染色体単一移入絨毛癌細胞では(1)ヌ-ドマウスでの造腫瘍能の抑制、(2)腫瘍形成速度の著明な延長、(3)足場非依存性増殖の抑制、(4)細胞倍加時間の延長、が観察された。しかし血清要求性及び細胞飽和密度は、7番染色体の移入により変化しなかった。このため7番染色体上には、絨毛癌の造腫瘍性さらには細胞増殖の抑制に関与する優性形質をもつ遺伝子が存在することが推測された。 マウスF9EC細胞は通常の培養条件下では分化が凍結された(Nullipotent)状態にあり、強力な分化誘導剤の存在下でのみ内胚葉系細胞へ分化する。F9細胞の分化に関与する分子機構を研究するため、ヒト正常線維芽細胞由来単一染色体をマウスF9細胞へ単一移入し、表現形質の変化について解析した。ヒト1,6,9,11,18番染色体の単一移入された微小核融合細胞は、親F9細胞と同様の細胞形態、増殖特性及び足場非依存性増殖を示した。しかし7番染色体単一移入F9細胞は、増殖特性及び足場非依存性増殖の抑制とともに顕著な細胞形態の変化を示した。多核で胞体の大きな合胞体細胞類似の細胞は多数出現し、絨毛細胞への分化が誘導されたことが示唆された。これらの結果から、ヒト7番染色体上には、絨毛癌細胞の増殖特性及び造腫瘍性を抑制する遺伝子とともに、絨毛細胞への発生・分化を誘導する遺伝子が存在することが推測された。
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