研究概要 |
ヒトプロト型cーHaーras遺伝子導入マウス(rasマウス)は高頻度に自然発癌する。発生した癌からDNAを抽出し,導入遺伝子およびマウスのHー,Kー,Nーras遺伝子の第12番および第61番コドンの点突然変異を調べてみると,血管肉腫や肺腺腫,ハ-ダ-腺腫においては導入遺伝子の第61番コドンに限って点突然変異が認められ,皮膚乳頭腫においては導入遺伝子の第12番コドンにのみ点突然変異が検出された。本年度は,rasマウスにメチルニトロソウレア(MNU)又はジメチルベンズアントラセン(DMBA)を腹腔に注射し,化学発癌剤に対する感受性を検討した。その結果,MNU投与後約12週で,すべてのトランスジェニックマウスの前胃に乳頭腫が認められ,しかも導入遺伝子の第12番コドンに点突然変異が検出された。一方,DMBA投与によっても約80%のrasマウスに前胃偏平上皮癌,肺腺癌および脾臓血管肉腫が誘発され,すべての腫瘍において導入遺伝子の第61番コドンの点突然変異が検出された。以上の結果は,発癌の組織特異性と,特異的な遺伝子の活性化とが対応することを強く示唆するものであった。 つぎにMNU又はDMBAを投与したrasマウスに,活性型ras遺伝子の働きを抑制することが知られている化学物質アザチロシン連続投与し,マウス個体での発癌抑制効果を検討した。その結果,MNUおよびDMBAそれぞれを投与されたrasマウスは,いづれも上記のような組織特異的発癌を示したが,アザチロシン投与群には一匹のマウスも発癌が認められず,個体レベルでもアザチロシンの有効性が実証された。 以上の結果,rasマウスは,導入遺伝子の体細胞突然変異を通して,組織特異的発癌を生ずるユニ-クな性質をもつマウスで発癌抑制物質や今後は抗癌剤の検索に応用ができる可能性があるものと考えられる。
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