研究概要 |
本研究では癌転移の機構を動的実験系から解明することを目指している。本年度はSCIDマウスに生着可能だが、転移しないヒト細胞を選び、それを遠隔臓器に移住させ得るマウスの接着分子の同定を試みた。1)転移能の異なるマウス胸腺腫に於ける接着分子の検討:AKR胸腺腫より株化したRー3は、90%がCD4^+CD8^+(DP),10%がCD4^ーCD8^ー(DN)である。この細胞をSCID或いはAKRマウスの皮下に移植すると、局所での腫留形成の他にリンパ節、脾臓、胸腺及び肝臓への転移と増殖がみられた。移植局所のRー3はDPとDN細胞が混在していたが、転移先ではDN細胞のみであった。移植局所で増殖したRー3からFACStarで分離したDP細胞を再び移植したが、転移先の細胞はDNであった。この結果、遠隔臓器への移住・増殖に関与する分子がDN細胞に発現している事を示唆する。そこで、DPとDN細胞に於けるVIAー4,Pgpー1,LFAー1,Mel 14等の接着やホ-ミング関与分子の発現を比較したが、差はなかった。即ち、それら分子は転移・移住に重要でないと結論され、新たな関連分子をコ-ドする遺伝子の単離を、1つはRー3DNとDP細胞のライブラリ-を作製しsubtraction法により試みている。2)マウスのdipeptidyl peptidase 1V(DPP1V)をコ-ドする遺伝子の単離:DPP IVは細胞外酵素の他に細胞外マトリックス受容体であり、活性化T細胞の発現することがラットとヒトで報告されていて、接着後のリンパ球の移住に関与することが予測される。その証明はマウスDPP 1Vを発現したヒト細胞を特定臓器に移住させることにより可能となる。そこでラットDPP IVのcDNA断片を鋳型として、マウスヘルパ-T細胞クロ-ンより作製したcDNAとのクロスハイブリダイゼ-ションにより、ラットのDPP 1V配列とホモロジ-の高い3,2kbのマウスDPP IV候補のcDNAを単離した。現在、発現ベクタ-に結合したDPP IV DNAのヒト細胞トランスフェクタントを作製し、SCIDマウスに移植すべく研究を進めている。
|