研究概要 |
本研究は,伊勢湾沿岸の自然環境や外力条件の変遷を踏まえて,伊勢湾台風による高潮災害の歴史的位置付けを明らかにし,統計的手法や数値シミュレ-ション手法を用いて高潮災害発生のメカニズムを解析するとともに,新しい高潮対策工法と,将来の海面上昇に伴う高潮対策のあり方を検討した。得られた成果は次の通りである。1.名古屋港と高知港を対象として,験潮記録の確率統計処理を行った。棄却検定の結果,伊勢湾台風時の最高潮位は棄却できないが潮位偏差は棄却でき,7010台風時の資料はいずれも棄却できることがわかった。また各種の確率分布を比較した結果,対数極値分布A型の適用性がよいことがわかった。2.古文書資料等を調べ,伊勢湾奥での天和以来の五つの歴史高潮を取りあげ,伊勢湾台風による高潮災害と比較した結果,規模の大きい正徳・享保・寛政の高潮は伊勢湾西側を通過した台風により引き起こされ,その高さは伊勢湾奥で2.5mを越していたことが推定された。3.伊勢湾台風時の高潮災害について調べ,高潮氾濫水の挙動と被害高の関係を氾濫シミュレ-ションによって検討することにより,被害高軽減に有効な堤内地条件を明らかにした。また,伊勢湾における高潮の数値シミュレ-ションを実施し,台風の通過コ-スおよび速度の影響が大きいこと,将来予想される海面上昇は高潮の発達を抑える働きのあることがわかった。4.尾張地域で,奈良時代から今日に至る約1200年間に発生した台風・高潮災害に注目して,災害と死者数の経年変化,発生月と死者数との関係,発生時刻,大規模高潮の浸水域推定図の作成について考察を加えた。5.高潮と同時に発生する異常波浪の打ち上げや越波の対応策として,複数列潜堤による消波効果を理論解析と実験によって検討した結果,潜堤設置間隔を調整することによって大幅な波高低減効果が得られること,入射波高が大きいほど波高低減率は大きくなることが見いだされた。
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