研究概要 |
1989年7月13日の伊東沖海底噴火に伴う群発地震の震源を再決定して,マグマの上昇過程を推定した。 伊東沖海底噴火に伴う群発地震については,噴火直後に実施した臨時観測の結果から,地震は5つの主要な地震群に分かれて発生しており,各活動域の間には明瞭な地震空白域が存在することが示された。しかし,これらは噴火後のものであり,マグマの運動と地震活動との関係は明確ではなかった。この関係を明らかにすることを目的として,噴火前後の1989年6月30日〜7月31日の地震の震源を再決定した。震源計算には,震央距離50km以内にある防災科学技術研究所,気象庁の観測点合計15点のデ-タのみを用いた。約110個の臨時観測で決定された震源に対する走時残差を用いて観測点補正をおこなった。 再決定された震源の時空間分布から以下の点が明らかになった。(1)手石海丘付近では,噴火の9日前から2日前にかけて,深さ約6kmから噴火地点直下に向かう地震活動域の移動・上昇運動が認められた。上昇速度は,はじめの半日間は約10km/dayと高速であったが,その後は約0.3km/dayとなった.(2)地震活動域の移動に伴い地震活動域は後に地震空白域となった。(3)初めの深さ6kmは1930年伊東群発地震の震源域の上限に相当しており,1930年の活動は長期的前兆現象であったと解釈される。(4)西方の海岸付近の地震活動は9日の最大地震(M5.5)の一種の余震的活動と見なせる。これに対して最大地震の震源付近の余震活動は不活発で,間もなく地震空白域となった。 手石海丘付近で見られた海底噴火に先行する地震活動域の上昇運動は,これらの地震活動がマグマの貫入,上昇に伴って引き起こされたものであることを示唆している。震源域の上昇速度が昇下する深さは地震波速度の不連続面の深さに対応しており,マグマの上昇運動が地殻構造の影響を受けていると解釈される。
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