研究概要 |
誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP/MS)と高速液体クロマトグラフ(HPLC)を直結した計測システム(HPLC‐ICP/MS)を用い,生体による重金属の取り込みおよびその体内における化学形態変化等について分子レベルの知見を得ることを目的に研究を実施している。本年度は,水圏で食物連鎖の原点に位置するラン藻を試料とし,培地に亜鉛・銅・カドミウム等を添加した際のメタロチオネイン(MT)様物質の誘導挙動について検討し,以下の知見が得られた。 (1)MT様タンパク誘導の経時特性:50ppbのCd^<2+>添加により,数十分の時定数でラン藻体内にMT様タンパクが誘導された。Cu含有量は初期の30分以内に一度減少したのち増加したが,これは,Cd^<2+>の添加前すでに体内にあったCu結合タンパクのCuがCdに置換されること,およびCdに誘導されたMTがCuを新たに取り込むことを示唆する。 (2)MT様タンパク中の金属:100ppbのCd^<2+>を加えた培地で20日間培養したラン藻体内に存在するMT様タンパク中の金属は,Cdが約80%,Znが約15%,Cuが約5%であった。Cdの約97%が細胞壁に検出されたことより,MT様タンパンの主な役割はCu,Znなど必須金属の貯蔵・代謝であると推定された。 (3)SH基定量法の開発:MTを含む水溶液にp‐塩化水銀安息香酸を加えるとMT内の金属がすべてHgで置換され,これをHPLC‐ICP/MS計測することによりSH基の定量が可能であることがわかった。 (4)MT様物質誘導における異種金属の相乗効果:Cu^<2+>のみではMTは誘導されないが,微量のZn^<2+>が共存すると顕著な誘導が観測された。こうした相乗効果については今後詳細な検討を行う予定である。
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