研究概要 |
本年度は主に,鉄鋼関連企業の労働現場においてFe,Cr,Ni等の粉じん又はフュ-ムに同時暴露される労働者の間で,DNAの構成々分であるチミンの代謝に対する影響が認められるか否かを,対照群と対比させながら解析した。チミン代謝に及ぼす影響の把握は,その最終代謝産物であるβーアミノイソ酪酸(AIBA)の尿中排泄量を蛍光HPLCを用いて定量することにより行った。暴露レベルの指標である,Cr,Ni,Feに尿中排泄動態に関しては,暴露群の方が対照群に比べて有意に高値を示した。特にCr及びNiの尿中排泄量は,暴露群のうちでもステンレス鋼材を取扱う作業グル-プにおいて予想通り高値を示した。 暴露群全体において,尿中AIBA排泄量と尿中Cr,Ni又はFe排泄量との間の相関々係(r)を求めたところ,いずれの場合においてもrに有意性を認めることは出来なかった。ところが,暴露群のうちでも,尿中Cr及びNiの排泄量の多かった作業グル-プのみに注目したところ,このグル-プにおける尿中AIBA量は対照群のそれに比べて軽度ではあるが有意の増加が認められた。この結果は,特にCr,Niを中心とした粉じん又はフュ-ムへの暴露が,ヒトにおけるチミンの代謝に何等かの影響を及ぼす可能性を示唆するものと思われる。今後は,労働現場における実態調査を重ねて暴露群(対象者)の例数を増やし,より詳細な検討を行いたい。 一方,昨年度より継続して行っている上記労働者に対する腎機能への影響評価に関しては,特に尿中酵素,NAGの活性を測定して昨年度の値と比較したが有意の活性上昇はみられなかった。それ故,腎機能に対する早期影響は現段階ではないものと思われる。
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