研究概要 |
本年度は磁性の共存する有機電導体の開発をBEDT‐TTF、TTM‐TTF、C_1TET‐TTFの三種のTTF系ドナ-と遷移金属ハロゲン化物アニオンMCl_x^<n->(M=Fe,Cu;X=Cl,Br)を用いて行った。結晶成長は電気化学的結晶成長法、拡散法により行い、(C_1TET‐TTF)FeCl_4、(TTM‐TTF)CuBr_4、(BEDT‐TTF)_3CuBr_3について単結晶を得、構造解析、電気的性質、磁気的性質の解析を行った。(C_1TET‐TTF)FeCl_4は単斜晶系C2/cの結晶構造を持ち、C_1TET‐TTFドナ-は二量体構造を組み、その回りをFeCl_4^-イオンが取り囲む。電子構造は半導体的である。二量体中にドナ-スピンはJ=-80Kの相互作用で反強磁性的に結合している。温度低下に従ってドナ-スピンのESR線幅がブロ-ドになることが明らかになった。このことはFe^<3+>のスピンによる内部磁場の効果を反映しているものと思われる。分子場による解析からドナ-とFe^<3+>スピン間の相互作用はJ'=1Kと見積もられた。(TTC_1‐TTF)CuBr_4は単斜晶系(C2/nに属し,結晶中ではCU.TTC_1-TTFは^+2価イオンとなっており、CuBr_4は正四面体から歪んだ構造を持つ。(TTC_1‐TTF分子はTTF骨格の2つの5員環が中心の炭素‐炭素結合を軸として46゚で捻れており、分子の中心の炭素‐炭素の結合長は1.55Aであり、一重結合性を持つ特殊な構造をとることが明らかになった。又、Cu^<2+>スピンのESRシグナルの測定結果から、CuBr_4の四面体構造の歪は温度により変化することが明らかとなった。(BEDT‐TTF)_3CuBu_3は、BEDT‐TTF分子が二次元的に配列して電導面を構成し、ρ_<rt>=4.1Ωcm、E_a=0.07eVの半導体であり、加圧により室温での比抵抗は9kbarで常圧の値の0.6%と極めて大きな低下を示した。又、抵抗の温度変化の測定から6kbarでは93Kに半導体‐半導体転移、更に9kbarで104Kに金属‐半導体転移が観測された。一方、Cuイオンは+1価と+2価の混合原子価状態を取り、ESR測定からCu^<2+>スピンとドナ-スピン間には磁気的相互作用が存在することが明らかとなった。
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