研究概要 |
昨年度、金属材料の腐食特性を決める重要な因子のひとつである水素過電圧について、合金の電子構造との関連性を解明した。本年度はこの成果を基に、新しい構造材料として最近注目を集めている金属間化合物(TiAl,FeAl,NiAl)の水素過電圧と電子構造との関連を検討した。 その結果、各種金属間化合物の水素過電圧におよぼす合金元素の影響は、遷移金属(Ti,Fe,Ni)合金における、それらと全く同じ振舞いをすることを明らかにした。すなわち、母金属(この場合、構成遷移金属元素、例えばFeAlにおけるFe)の周期表の位置より左側の元素を添加しても、水素過電圧は殆ど変化しないのに対し、右側の元素を添加すると大きく変化する。この場合の変化には、合金元素が純金属の場合に示す水素過電圧の特徴が現れる。 このような合金元素による水素過電圧の変化は、やはり遷移金属合金の場合と同様、化合物と構成する金属元素間の電子の移行方向を考えることにより説明される。この場合、構成元素間での電子移行の結果、最も負のイオン性をもった元素が水素発生サイトとなり、その元素自身がもつ水素過電圧特性が化合物の水素過電圧となる。例えば、Ti,V,CrおよびMnを含んだFeAlではFeが最も負のイオン性をもつ。このため、これら元素を含むFeAlの水素過電圧は合金元素の影響を受けず、純鉄のそれと同じ値を示す。これに対してCo、NiおよびCuはFeAl中では最も負のイオン性をもつため、これら元素の特徴が化合物の水素過電圧に反映される。この他、化合物のフェルミ準位もその水素過電圧と相関のあることなどを明らかにした。 本研究により、昨年度提唱した遷移金属合金の水素過電圧を理解するための合金理論が、金属間化合物の水素過電圧の理解にも適用できることが明らかとなった。
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