研究概要 |
局在系有機磁性体(TANOL)と非局在系有機磁性体(pーclーBDPA)の磁気的性質を加圧下で測定した。今年度の研究では加圧下での磁気比熱から磁気相転移の変化を調べたが、結論的には,有機磁性体の磁気特性の圧力による変化は無機磁性体に比較し一桁程度大きいことが明らかにされた。これは磁気機能発現のための分子間相互作用が圧力によって強く影響を受けることを示し,圧力下での有機磁性機能の特異な発現を期待させるものである。TANOLやpーClーBDPA共に一次元磁性体として分類され,それらの分子間相互作用は-5.0Kあるいは-4.4Kであるが,その一次元鎖間の相互作用のためそれぞれ0.49K,3.25Kで反強磁性転移を起こす。このデ-タからみると,非局在系であるpーclーBDPAは純粋に一次元性というより,二次元性も混在している。一次元鎖内の交換相互作用Jと鎖間の交換相互作用J′との比はJ′/J=0.004(TANOL),0.2(pーclーBDPA)である。加圧による磁気転移温度T_Nと分子間交換相互作用定数J,J′の変化を調べると,いずれも直線的に増加することがわかった。圧力5kbarでは転移温度は約1.8倍に達し,相当分子間相互作用が強まった。pーclーBDPAではこの値は1.5倍とやや小さいが,これはpーclーBDPAが二次元的性格をもっているためと考えられる。しかし,転移温度の値そのものは5.03Kと大きく,今まで観測された最高のスピン秩序温度を記録した。TANOLにおける分子間相互作用定数Jは7.5Kまで上がり,相当強い交換相互作用を実現している。6kbarまでの加圧下では大気圧下でのスピン秩序相と異なる新しい秩序相を現出すことはできなかったが,磁気相互作用を強めることが確認された。負のスピン密度を媒介する分子間相互作用によって強磁性的スピン相互作用を見出し,新しい有機材料の機能発現に取り組むのが究極の研究目標であるので,他の物質のデ-タも望まれる。
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