研究概要 |
極性の大きい発色団を含む両親媒性化合物と,長鎖脂肪酸などを交互に累積した非対称LB膜には,焦電性,および光学的非線形性が期待できる。本研究では,分子軸方向に大きい極性をもつドデルシオキシフエニルピラジンカルボン酸(DOPC)と重水素化ステアリン酸の交互累積膜,ならびにそれらのBa塩の交互累積膜を作製して,膜中の分子配向の温度変化を,赤外誘過および反射吸収スペクトルから,我々が先に提案した方法で定量的に評価するとともに,膜の焦電流を精密に測定し,両者の相関性を検討してきた。本年度は特に,上の相関性に及ぼす非対称LB膜の厚さの影響に注目して研究を進め,相関性をより深く理解するための手掛りを得ようとした。 結果をまとめると次のとおりである。(1)Ba塩交互膜の焦電係数は膜厚に関係なくほぼ一定であるのに対し,酸の交互膜のそれは,膜厚とともに直線的に減少する。(2)Ba塩交互膜中のDOPCの炭化水素鎖の傾き角は膜厚によらずほぼ一定であるが,酸交互膜中では膜厚とともに直線的に増加する。以上の結果から次のことが結論できる。[1]同じ構成分子から成る非対称LB膜では,分子鎖の傾きが小さいほど焦電性が大きい。[2]配向の程度が等しければ,酸の交互膜の方が,Ba塩のそれよりも焦電性が大きい。これは,酸の方がBa塩に比べて膜中の分子間互作用が小さく,同じ温度変化に対する分子の動きが大きいため,自発分極の変化が大きくなると考えてよく理解できる。 非対称LB膜の焦電性を支配する今一つの要素として,炭化水素鎖の規定性が考えられので,今後は検出感度の高い電荷結合素子(CCD)マルチチャンネル検出器を用いて,上記LB膜のCH伸縮振振動領域の非共鳴ラマンスペクトルを測定して,分子規則性の温度変化を研究し,焦電性との関連を検討したい。
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