研究概要 |
日本語を洋楽的唱法で歌唱する場合に,しばしば歌詞の不明瞭さが生じ,“何を言っているのか解らない"という事態を招いており,その改善が強く望まれている(特に,女声の高ピッチ発声時)。今年度は,前年度の単母音の場合を発展させて,一般の音節(CV)について大規模な音節明瞭度試験を行った。1.方法は,(1)6名のプロ・ソプラノ歌手が無響室内で先行母音を伴ったCV音節(C:破裂音と鼻音の全て)を評価対象の音節(対象音節)とした発声テキストを,3種類の発声ピッチで歌唱し,それをDAT録音した。発声テキストは,50音中の破裂音と鼻音の,/ぢ,づ,ち,つ/を除く41音節の前に先行母音を付加して作成した,21個の音節列で構成される(41×5母音=205個の先行母音と対象音節の組の,5個のダミ-音節の組を加えた合計210組を10組づつに分割)。(2)音節列,発声者,ピッチについてランダム化した合計378個(21音節列×6発声者×3ピッチ)の音節列サンプルの音節明瞭度試験を,ヘッドホン両耳受聴により行った。2.それによって次の結果が得られた。(1)母・子音の調音点,調音法の組合わせによって,対象音節の正答率は先行母音の影響を受ける。(2)発声ピッチの上昇と共に異聴率は高くなり,対象音節の子音のいかんにかゝわらず,対象音節の母音が/u/の時にピッチの影響が顕著に現われる。また,先行母音,対象音節ともに,ピッチ上昇と共に/o/,/u/は/a/に異聴され易い。(3)子音の違いによって,正答率のピッチ上昇に伴う劣化の程度が異なり,一般的に,鼻音の方が破裂音に比べて異聴され易い。また,対象音節の母音が/a/の場合が最も異聴されにくく,/u/で異聴され易い。 今後,破裂音,鼻音以外の子音の場合についても同様の試験を計画している。但し,実験規模の拡大を防ぐことに充分注意する必要がある。
|