研究概要 |
βーラクタム系抗生物質は強い抗菌活性を示すことからその合成法については多くの研究がなされ光学活性なβーラクタムの一方の鏡像体のみを合成する手法については種々報告されている。不斉合成反応において従来開発されてきた手法は、一方の異性体のみを立体選択的に与えるものが多いが、不斉源としてアミノ酸など天然由来の物質で一方の対掌体しか入手できない物を用いる場合は、もう一方の対掌体の合成はできず、天然物合成に応用する場合には、立体配置を反転する変換が必要となる。同一の出発物質から二つの異性体を作り分ける制御が可能ならば、このような問題は解決できる。本研究では同一の光学活性イミンへのエステルエノラ-ドの付加反応において金属がヘテロ原子に対する独自の配位能力を有することを考慮し、エノラ-トの金属種を選択することによりβーラクタムの両鏡像体の任意の合成を検討した。出発物質である光学活性イミノ化合物はpーアニシジンと酒石酸から誘導した(4S,5S)ー2ーホルミル ー2ーメチルー4,5ージ(メトキシメチル)ー1,3ージオキソランから合成したα,αージ置換酢酸エチルのエノラ-トを用いて反応させた場合βーラクタムの4位の立体選択性はリチウムエノラ-トでS体、チタンエノラ-トでR体のβーラクタムを得ることができた。さらに3位が無置換もしくはモノアルキル、スルフェニル、アミノ置換βーラクタムの合成では立体的に嵩高いtーフチルエステルを用いチタンエノラ-トの場合は4S体のみが選択的に得られ、亜鉛エノラ-トを用いた場合はジアステレオ選択性が逆転し、4位の立体配置が逆転した4R体が優先的に得られることを見いだした。上述したように用いる金属の配位機能を利用することにより、ジアステレオ面選択性を制御し、同一の出発物質から異なる絶対構造を有するβーラクタムの両体掌体を選択的に合成できる本手法は各種光学活性βークラタムの合成に広く活用できる手法である。
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