研究概要 |
複合電子伝達系を導入することで、遷移金属の効率的なレドックスに基づく酸化反応系を構築した。 オルトキノン骨格を有する補酵素PQQのトリメチルエステル誘導体(PQQTME)とパラジウム(II)塩との組合せは、PQQTMEがパラジウムに配位することで酸素雰囲気下、効率的で可逆的なレドックスサイクルを形成し、合成化学的に有用であることを明らかにしている。この触媒系はα,βーエポキシシランのα,βー不飽和カルボニル化合物への立体選択的な酸化的変換反応にも適用できることが判明した。酸化過程はスペクトル的に追跡、確認された。 ピリジンジカルボン酸とヒスタミンから合成されるアミドは、剛直でないPodand型多座配位子として機能すると考えられる。還元剤共存下、バナジウムやマンガン触媒による酸化では、遷移金属の差異により反応様式が変わり、効率的な反応系が構築された。このアミド配位子の配位様式は分子軌道計算に基づく考察より、4つの窒素原子がほゞ同一平面内で鉄と配位し、残り1つのイミダゾリル基はシトクロムP450における軸配位子として機能できることが明らかとなった。イミダゾリル基は鉄に対し、供与性および逆供与性配位子として作用できることがPIO計算より示唆された。このような特性は、分子状酸素による2ーノルボルネンの立体選択的なエポキシ化反応に用いることができた。鉄錯体の単離および同定には至っていないが、スペクトル的に錯形成が確認され、アミド配位子は全体として供与性配位子として有用であることが観測された。 オキソバナジウムのレドックスを利用した一電子酸化反応では、ラジカルを反応中間体とするアリル位酸化、還開裂炭素一炭素結合形成、脱水素芳香族化などの酸化的変換反応が開発され、合成化学的に有用な手法を提供した。
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