研究概要 |
本研究ではこれまでに近傍官能基を持たないオレフィンの高エナンチオ選択的エポキシ化を目的として検討を行い光学活性なサレンマンガン錯体が極めて優れた触媒であることを報告しているが、今年度は更に高い不斉誘起能を持つ新規サレン錯体触媒の開発と新たな酸化反応場の構築を目的として研究を行い下記の成果を得ることができた。 i)これまでに各種の光学活性なサレン錯体を合成して、サレン錯体が近傍官能基を持たないオレフィン(特にシスーオレフィン)の不斉エポキシ化の触媒として極めて優れていることを明らかにすると共にサレン錯体上の不斉中心の構造やその位置と不斉誘起能との関係を明らかにしてきたが、今年度はこれらの知見を基にサレン錯体の芳香環部不斉中心の改良を行い90%ee以上の高不斉収率を達成することができた。この新しい錯体を用いて、降圧作用など興味ある薬理活性を示す4ーアミノー3ーヒドロキシー2,2ージメチルクロマン誘導体の鍵合成中間体として大変重要な3,4ーエポキシー2,2ージメチルクロマンを入手容易なー2,2ージメチルクロメンより高不斉及び化学収率(88ー92%ee)で得る方法を開発した。一方、これまでのところサレン錯体及びその関連化合物であるポリフィリン錯体を用いてトランスーオレフィン類の不斉エポキシ化で高い不斉収率を得ることは一般的に困難であるが、今回これらについても検討を行い別途合成したサレン錯体を用いてトランスースチルベンのエポキシ化で61%eeを達成することができた。この値はトランスーオレフィン類の触媒的不斉エポキシ化としてはこれまでに報告されたうちで最高の値である。今後更に検討を進めトランス、シスを問わず近傍官能基を持たないオレフィンの一般的不斉エポキシ化法を開発したい。 ii)サレン錯体以上に高い不斉誘起能を持つ反応場を開発する目的でサレン錯体のフェノキシド酸素を不斉窒素で置き換えることを検討した。今年度は予備実験としてアキラルなモデル錯体を合成し反応条件を検討したところ、分子状酸素を用いる向山の条件下で収率良くエポキシドを与えることを見いだした。 iii)更に各種二核錯体もエポキシ化の有効な触媒であることを見いだした。 現在、ii)およびiii)で開発した新しい反応場におけるエポキシ化の反応機構の解明とそれらの知見を基に新しい不斉反応場の構築を検討中である。
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