研究概要 |
最近エイズの病態において、cofactorとして日和見感染の重要性が注目され、その1つにmycoplasmaが指摘されている。S‐H,Lo(Armed Forces Inst.of Pathology,Washington D.C.)およびL.montagnier(Pasteur Inst,Paris)によりエイズ患者で検出され、特にLoが分離したMycoplasma fermentansとそのsubline,M.incognitusが、HIV‐1が感染したCD4陽性リンパ球に重感染すると,リンパ球は死滅することを示した。Mycoplasma属には78種知られており、原核生物の最下等に位置する。この種の中にはリンパ球に致命的に作用する分子を産生するものがあることは1970年代から知られていたが、その分子基盤は不明のままであった。私共はエイズとは無関係に、M.argininiが産生するこの致死活性を有する分子の構造を遺伝子クロ-ニングにより決定し高等動物にはないarginine deiminase(AD,EC 3・5・3・6)であることを明らかにした。更に何故リンパ球に致命的に作用するかを分子レベルで解明した。この研究は、Lo等の報告した現象に、私共が明らかにした結果そのものが関与している可能性を示唆した。本研究ではADをプロ-プとし、S‐H,Loの共同研究者Dr.Shin,J.W‐K(NIH,Bethesda)より恵与されたM.Incognitus,及びM.fermentansのsubline2種についてサザ-ンブロット解析をおこない、その全てがAD遺伝子を有していること、しかしM.argininiのADとは構造上相違があることを明らかにした。この成績はADを産生するMycoplasmaの感染組織局所においては、同一の機序でHIV‐1のTリンパ球殺傷効果をさらに強く増幅する可能性を示唆した。Mycoplasmaがエイズのcofactorとして重要であるかどうか、今後も広範なモニタ-が必要であるが、エイズにおいてはマイコプラズマを含む他の日和見感染の影響は過小評価できないと考えられる。これらの重感染を防止できれば、エイズの病態の改善にきわめて有効であることが期待できる。
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