研究概要 |
この研究の課題は,中部日本の扇状地を取りあげ,明治期以降の農業的土地利用の時間的・空間的変動を明らかにし,それが生ずる地域的条件とメカニズムを明らかにすることである。 昨年度分析した1930年代と1980年代に加えて,1960年代の扇状地の土地利用を検討したほか,土地利用の地域差を扇状地の規模と傾斜,集水面積と扇状地面積の比率といった自然条件から考察した。また,昨年度は戸谷らの基準による113の扇状地を取り上げたが,よい厳密な定義がなされている斉藤享治の最近の研究に基づいて,中部地方の133の扇状地を対象とすることにした。 1930年代には水田が卓越する扇状地が76で全体の57%を占め,さらに桑畑と林地が卓越する扇状地がそれぞれ44と13を数えた。1960年代になると桑畑や林地が水田や普通畑,果樹園に転換された扇状地が多くなり,さらに1980年代になると宅地化された扇状地が増加した。1930年代以降の扇状地の土地利用変化を類型化すると,水田が継続的に卓越している「水田継続型」と,桑畑や林地が水田や果樹園,普通畑に変わった「農業的土地利用集約型」と都市的土地利用が圧倒的に多くなった「都市的土地利用転換型」の3つに分けられ,それぞれ日本海岸と中央高地 太平洋岸に主にみられた。「水田継続型」は64扇状地,「農業的土地利用集約型」は50,「都市的土地利用転換型」は19を数えた。各類型を代表する黒部川扇状地と甲府盆地(特に日川扇状地),大井川扇状地で,土地利用の時間的・空間的変動を規定する条件を考察した。自然条件としては扇状地の規模と傾斜,積雪の有無が重要であることがわかり,歴史的条件としては藩政期における支配関係,そして経済的条件としては大都市への近接性の高さが特に大きな意味をもっていることがわかった。
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