研究概要 |
この研究は、21世紀の日本が高位文明社会を構築していくために、美的社会が核心の構造になると考え、わが国が20世紀の後半に行ってきた産業開発による景観破壊の問題を取上げ、今後のあり方への方策を探るものである。具体研究として,日本の工業開発による景観破壊問題が凝集して起っている地域が,富士市を中心とする富士山の南面地にあると考え,日本の代表的景観地の工業開発を20世紀後期における最大の誤謬の一つとしてとらえ、その問題の生起と修正の方策を示すことにした。 1960年代富士市は、工業特別地の指定を得た岳南地方の中心として工業を発展させていった。1970年約4千億円の生産高が1990年に1兆7千億円に急増した。そのうち紙生産高は約3分の1である。工業用水は年間約2億トン使用されている。そのうち6割強が製紙に使用される。富士市には5m以上の煙突が365本あり,30m以上が100本ある。そこから1日約30万トンの水が,蒸気になって空中に放出され,煙の微粒子と作用して靄を作り、海風に乗って富士山の方向へ拡散し,東海道側からの富士山の視程を低下させている。拡散式のコンピュ-タシミュレ-ションと、実際観測によってその影響を確かめた。富士山は、南面に年間約15億トンの雨を降らせ、5億トンの水を伏流水としてこの地へ天賦させている。工業は、その恩恵を富士山を見え難くすることで返している。富士市の工場外観は,乱立する煙突と相俟って,全国でも最も醜い姿をしているといえる。世界的秀景の富士山を,この醜景の工場が景観破壊をしている評価を調べた。 われわれは、日本を代表する勝景地の工業開発による破壊を,20世紀の大きな誤りとし、姑息な取組みではなく、後世への責任をかけた歴史的国家事業として、補償して工場移転を断行し、湖を作り、森を育て、百年をかけての誤りの修正に取組むべきことを提言している。
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