研究概要 |
ほとんどの鉄隕石は,地球様天体の核として形成されたものと考えられている。鉄隕石の冷却速度は,Woodらにより,その研磨して酸で腐食した表面に見られるウィドマンシュテッテン構造のテ-ナイト中のニッケル元素の分布から,1〜10℃/10^6年と推定されている。この冷却期間中には,ニッケル原子の拡散が起こる。鉄隕石オデッサの場合をモデルとした,計算機を用いたシミュレ-ション実験によると,この拡散の過程で同位体の分別が生じることが考えられるという結果が得られた。これを実験的に確かめるために,実際の鉄隕石オデッサ試料について,カマサイトーテ-ナイトの境界を横切って,SIMSによるニッケル同位体比線分析を行った。鳴門教育大学において製作中のSIMSは現在性能改善中であるため,大阪大学のSIMSを用いて実験を行った。一次イオンとして8keVのO_2^+を用い,試料表面上のイオンビ-ム直径と電流はそれぞれ200μmおよび2×10^<-7>Aとした。同位体比 ^<58>Ni/ ^<60>Niおよび ^<58>Ni/^<62>Niを測定した。またニッケル濃度の指標として ^<58>Ni/ ^<56>Feも同時に測定した。この結果,一次イオンビ-ムが,いわゆるテ-ナイト中のニッケルのM型分布を再現できるほど細く絞れていないため,位置の分解能は不十分ながら, ^<58>Ni/ ^<60>Niがカマサイト中よりもテ- ナイト中で高い値を示す傾向をもつことが観測された。即ち,テ-ナイト中でのニッケル原子の拡散に伴い,軽い同位体 ^<58>Niが重い同位体 ^<60>Niよりもテ-ナイト結晶の中心部に偏析していることが知られた。今後は,各種の鉄隕石および石鉄隕石について,同位体比測定を行い,同様な傾向が認められるかどうかを確認する実験を続ける。
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