研究概要 |
アミノ置換ホスファイト(L=P(NR_Z)(OR)(Y);Y=NR_2 or OR)を配位子とするピアノイス型鉄陽イオン錯体[Cp(CO)_2FeL]^+はLewis塩基OR^<'->と反応し,対応するホスホネ-ト鉄錯体[Cp(CO)_2Fe{P(O)(OR)Y}]を生成することを見出した。この反応ではリン上のアミノ基NR_2が選択的に脱離し,しかも加えたOR'^-はホスホネ-トのP=Oの酸素を提房しているだけである。そこで次のような機構を想定した。つまり、OR^<'->がリン原子を求核攻撃し、一旦メタラホスホラン錯体を生成する。この時NR_2基とOR^'基がリンのアピカル位を占 め、分子内位置交換は起こらない。その後もう1分子のOR^<'->がアピカル位のOR^'基のα炭素を求核的に攻撃して、電子が直線的に流れNR_2^-が脱離するというものである。そこで、つぎの2点に着目してこの反応を検討した。 1.[Cp(PMe_3)_2FeL]^+とOMe^-との反応(共存配位子カルボニルCOの役割):もう1つの機構としてLewis塩基OR^<'->がCOを攻撃し、メタラカルボキシラト錯体を経由するパスが考えられる(Gibson,1988)。そこで、COを全く含まない表題の錯体(L=P(OMe)_n(NR_2)_<3-n>)とOR^<'->との反応を検討した。その結果,反応性はかなり低下するものの,やはり脱アミノ化を伴ってホスホネ-ト錯体が生成した。この事実は我々の上記の機構を強く支持する。 2.[Cp(CO)_2Fe{P(OEt)_3]^+とNaBH_4との反応(Lewis塩基H^-との反応):この反応の中間体であるメタラホスホランを単離・同定することを目指し、上記の反応を試みた。その結果、COが一つヒドリドに置換された錯体が生成していた。種々の検討の結果、この場合にもまずH^-がリン原子を求核攻撃してメタラホスホランが生成し、その後リン上でのリガンドカップリングによってヒドリド錯体が生成する機構が最も妥当であるという結論を得た。しかし、H^-を置換基とするメタラホスホランの単離・同定には成功していない。
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