研究概要 |
3‐イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素の反応機構及び基質認識を明らかにするため,基質アナログ及びホモログを合成して酵素反応の速度論的解析を行なった。3‐イソプロピルリンゴ酸の1‐カルボキサミド誘導体は基質活性、阻害活性とも全く示さず,酵素との親和性が認められなかった。これは,基質1位のカルボキシレ-トイオンと酵素活性中心のアルギニン残基との静電相互作用が基質認識に必須であることを意味する。不拮抗的阻害剤として開発した基質の2‐0‐メチル誘導体の抗菌性を調べたが活性はなかった。酵素との親和性の低下によると思われる。リンゴ酸の3位をメチル,エチル,イソブチル,t‐ブチル,イソアミルとした基質ホモログを,ジアセトングルコ-スの不斉構造を活用する我々の方法でエナンチオ選択的に合成し,酵素反応の速度論的解析に付した。酵素との親和性(Km)はイソブチル体が最も大きく,また反応速度(Kcat)はエチル体が最も高かった。しかし,酵素としての効率を示すKcat/Kmは本来のイソプロピルが最も高いという興味深い結果を得た。このことは,酵素と基質の間の疎水結合が基質の認識に重要な役割を担っていることを示すものである。 3‐(1‐フルオロ‐1‐メチルエチル)リンゴ酸を機構依存的自殺基質として設計合成し酵素反応に付した。NADHの産生は認めたが阻害はなかった。酵素との反応液を ^<19>F‐NMRで調べたところフッ化物イオンの生成が確認された。反応の生成物として2‐オキソ‐4‐メチルペンテン酸を推定し,それを合成によって確認した。これは,フッ素化基質が当初の目論見通り酵素反応を受けた後脱フッ化水素まで進行したことを示す。期待した酵素内の求核性官能基による共有給合の形成が生起しなかったのは,立体障害による反応性の低下かあるいは酵素活性中心に適当な求核性官能基がないことを示すものと考えられる。
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