研究概要 |
細胞内の情報伝達に重要な役割を担っているDーIns(1,4,5)P_3とDーIns(1,3,4,5)P_4を、以下の様に、これまで報告されてきた方法に比べ格段に短い工程で効率良く合成することができた。ミオーイノシト-ルに塩化ベンゾイルを作用させると、保護体として大変都合のよい1,3,5ートリベンゾイル体が一挙に得られることが分かった。これを酒石酸モノメチルエステルでアシル化し、高い光学純度(96% de)で一方の異性体を得た。続いてシリル化後再結晶したところ、光学的に純粋なシリルエ-テルが得られた。次の脱アシル化は、従来法ではよい結果は得られなかったが、EtMgBrを用いたところ、シリル基が転移することなく対応するテトラオ-ルが好収率で得られることが分かった。この脱アシル化法は一般的にも利用できることを明らかにした。一方、MeMgBrを用いると、3位のベンゾイル基が残った1,4,5ートリオ-ルが主生成物として得られた。これらを環状亜リン酸アミド(XEPA)を用いてリン酸エステルへ誘導後、脱保護し2つの標的化合物を定量的に得た。上述のXEPAがリン酸ジエステルの合成にも利用できないか今回検討した結果、いったん生成するホスファイトにピリジニウムブロミドパ-ブロミドをアルコ-ルの存在下作用させると、対応するトリエステルが収率よく得られることを見いだした。これは加水素化分解あるいはナトリウムジスルフィドの作用により脱保護されリン酸ジエステルに誘導された。生理活性物質の作用機構を調べるために、アジド基とビオチンを合わせ持つ光親和性標識化合物を合成した。これは、66KDaのIP_3ー認識タンパクを特異的に標識することが分かった。また、Ins(1,3,4,5)P_4の2位を同様に修飾した類縁体2種も合成した。これらも天然体と同様の活性を示すことが明らかとなり、今なお生理作用のはっきりしていないIns(1,3,4,5)P_4の機能解明のために有効に利用されるものと期待したい。
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