研究概要 |
[弾性研究] At/Co,Au/Co多層膜(東大先端研)とCu/Ni人工格子(関西学院大)について、表面弾性波の測定を行い、金属人工格子における異常力学物性を議論した。 Cu/Ni人工格子では、積層周期20A付近でヤング率の異常増大が報告されているにも拘らず、ブリルアン散乱から求められた横波弾性率(C44)には、全く積層周期依存性が観測されなかった。 Ag/CoとAu/Co多層膜では、積層周期が短くなるにつれ弾性定数C44の減少が観測された。Ag/Coでは、周期70A以下ではC44の減少が止まるのに対し(〜15%)、Au/Co多層膜では、積層周期20AでもC44の減少傾向(〜33%)が観測された。 [磁性研究] PtMnSb/CuMnSbとFe/Cr多層膜(東北大金研)について、スピン波の測定を行った。併せて、これらの実験結果を解釈するために、2種類の任意の磁性体と非磁性体から構成された人工格子について、バルクスピン波の振動数を与える一般式を導出した。 PtMnSbは室温で強磁性体があるが、CuMnSbは55Kに反強磁性相転移を持つ。PtMnSb(100A)/CuMnSb(10,50,100A)多層膜について、反強磁性相転移温度近傍でのスピン波の振舞いを詳細に調べた。20Kと120Kの間で、スピン波振動数に〜6%の増加が観測された。この増加は秩序変数型の温度変化を示す。CuMnSb層の反強磁性磁気秩序の形成にともない、部分格子磁化に比例した有効異方性磁場が強磁性層に誘起された効果として解釈できる。 Fe(30A)/Cr(dCr)多層膜では、Cr層を介在したFe層間のRKKY型交換相互作用により、多層膜に巨視的磁気構造が形成される。交換相互作用が反強磁性型(dCr=12A)と強磁性型(20A)の多層膜について、スピン波スペクトルの計算と測定を行った。理論計算によれば、反強磁性構造のスペクトルには2組のピ-クが、強磁性構造では1組のピ-クが期待される。強磁性型試料については、理論と実験のよい一致が得られた。一方、反強磁性型試料については、高磁場下での強制強磁性状態では理論から期待される1組のピ-クが観測されたが、巨視的反強磁性構造が実現されていると思われる低磁場領域では、明瞭なスピン波ピ-クの観測には成功しておらず、測定が進行中である。
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