研究概要 |
金属多層膜の性質は,層界面の急峻性ばかりでなく,隣接する層間での原子配列の界面整合性に関係すると考えられる。本研究では,積層膜の層界面での結晶学的方位対応(格子対応)と結晶学的方位でのミスフィットを考慮して,Fe/M(M=Ag,Cu)系を選定し,それらが膜の磁気特性,界面構造や界面での格子ひずみなどにどのような影響を及ぼすかを調べた。得られた主な結果は以下のとおりである。 (1)Fe/Ag系多層膜では,結晶配向特性が(110)Fe//(lll)Agであった。(2)この多層膜の磁気特性は面内に磁気異方性を示すことを,ロ-レンツ電子顕微鏡観察およびVSM法で確認した。(3)層厚がFe/Ag=1/10の多層膜では,Fe膜厚が6.5nm以上のとき,間に挿入されたFe膜の数に対応した数のステップがMーH磁化曲線上に観察された。(4)X線回折および電子線回折・電子顕微鏡観察の解析結果より,積層されたAg層の厚さと基板シリコンからの距離(全膜厚)の双方が間に挿入されたFe層の結晶学的方位ならびに膜内結晶粒の大きさに影響し,その変化が間接的にFe膜の磁気特性に作用し,結果と して,MーH曲線に挿入されたそれぞれのFe膜に対応したステップを形成することを明かにした。(5)同様な結果がFe/Cu系多層膜の場合にも期待され,実際に確認された。しかし,その特性変化の大きさについては,FeとMとの格子定数の違いに起因するが,特性変化の詳細については今後さらに慎重に調べる必要があるとの結論を得た。(6)以上の結果は,同種のFe/M系多層膜を作製するとき,一般的に成立すると考えられる。したがって,間に挿入される面心立方晶系の金属の結晶学的優先配向方位,結晶粒の大きさ,格子定数,Fe原子との非固溶性などの点から詳しく調べることは,鉄系多層膜の磁気特性を制御する上で貴重な基礎デ-タを提供するものと考えられ,その観点から各種の多層膜について実験を計画中である。
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