研究概要 |
磁性人工格子膜の垂直磁気異方性の起源の一つにひずみ誘導異方性が考えられている。われわれは、今までに磁性層に加わる応力を成膜中にその場測定しひずみ誘導異方性の寄与について議論してきた。本年度は、磁性層、非磁性層間の格子定数差と磁気異方性の関係を調べるため、非磁性層に合金を用いてその組成を変化することにより磁性層との格子定数差を連続的に変化し、磁性層のCoPd合金の異方性の変化を測定した。 非磁性層をCu,Cu_<1ーx>Pd_x,Pd,Pd_<1ーy>Ag_y,Agと変化させることによりその格子定数を3.6から4.08Aまで変化し、磁性層(Co_<60>Pd_<40>)の磁気ひずみ定数(λ_<CoPd>)、垂直磁気異方性(K_<eff>=K_uー2πMs^2)を測定した。λ_<CoPd>は非磁性層がPdのときその絶対値が最大となり界面でのミキシングあるいは近接効果の存在が示唆された。 Keffの変化は、λ_<CoPd>の変化によく対応、格子定数差が0で極小となり、磁性層が引っ張り応力を受けるような格子定数差のとき正の値を取り、垂直異方性に逆磁気ひずみ効果が重要な関連を持つことを示唆した。非磁性層がPdAgの場合にはλ_<CoPd>が大きいにも関わらずK_<eff>が小さくなった。そこで、RHEEDにより成膜中に膜の格子ひずみをその場観察した。その結果、Cu,Cu_<1ーx>Pd_x,Pd上のCoPdは格子整合をして成長し、Agの上では格子整合せずに成長するが観測された。すなわちPd_<1ーx>Ag_x,Ag上ではCoPd合金層にはひずみが加わっていないことが予測されそのためK_<eff>が小さくなったと考えられる。また、Co/Pdに比べ垂直磁気異方性の小さいNi/Pd膜についてRHEED観察からNi層は殆どPd層に独立に成長し格子ひずみは非常に小さいことも判明した。 これらから、垂直磁気異方性に磁気ひずみ効果が関連することは明らかにされたが、その寄与率に関した定量的な議論が残されている。
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