研究概要 |
タンパク質や抗生物質(ブレオマイシンなど)の中には一分子中に複数の機能部位を持ち、化合物全体として塩基配列異的にDNA鎖を切断するものがある。Heminに突然変異原物質Glu‐P‐1(=2‐amino‐6‐methyldipyrido[1,2‐a:3',2'‐d]imidazole)をつけた鉄錯体がブレオマイシンと同じ塩基配列でDNAを切断すること、また、Heminにアクリジンやアコダゾ-ルがついた鉄錯体が塩基配列特異性を全く示さないことが報告されているが、これらの特異性の原因についてはほとんど分かつていない。複数の機能部位をもつ金属錯体によるDNA鎖切断機構の解明、塩基配列特異性を持った新しいDNA鎖切断金属錯体の開発をめざし、水溶性ポルフィリンを第1の機能部位に、Glu‐P‐1または芳香環を持たないエチルエステルを第2の機能部位にして、両者をメチレン鎖で連結させた一連の新化合物を合成した。これらの化合物は元素分析、吸収スペクトル, ^1H‐NMR、FABMASスペクトルで同定した。DNAとの結合様式を、吸収スペクトル、DNAの融点測定、topoisomerase IによるDNA巻戻し実験で検討した。フリ-ベ-ス体、銅錯体の場合はDNA上への自己集合、塩基対間へのインタ-カレ-ション、DNAの溝(groove)または外側への結合の複合様式が考えられるが、鉄錯体の場合にはインタ-カレ-トしないことが分かった。側鎖の末端の違いは滴定実験および巻戻し実験では差が見られなかったが、融解実験の場合には融解開始温度と協同性に若干の相違が見られ、末端部分もDNAと相互作用していることが示された。 鉄錯体は還元剤存在下でDNAを切断した。末端を ^<32>Pで標職したDNA断片を用いポリアクリルアミド電気泳動法で塩基配列特異性を調べた。切断特異性は非常に高く、A/Tが3個連続した配列およびその近傍でのみ切断されている。この高い塩基配列特異性の認識機構についてさらに解明を進める予定である。
|