研究概要 |
準結晶と通常の結晶との相違点は,後者が並進対称性を持つのに対し,前者にはそれがないことである。通常の結晶の成長過程は,Burton等の理論によって微視的によく説明されている。ただし,この理論は結晶に並進対称性があることを前提にしてつくられているので(キンクなどの結晶成長点の並進運動が本質的役割を果たしている),少くともそのままの形では準結晶系には適用できない。それでは準結晶のようなある意味で極めて不思議な構造がどのようにして物理的に生成しうるのであろうか。我々は以下の2つの問題を設定してこれに答えるべく努力した。 (I)完全な準結晶秩序は物理的に存在しえるか。 (II)仮にそれがあるとすれば,それは微視的にどのように生成するか。 設問(I)に答えるために,完全準結晶の一例としてScolarーSteinhardtモデルとHenlyーElserモデルをとり上げた。それらの系を構成する粒子(原子)間にLennardーJones型のボテンシヤルで表わされる相互作用を仮定し,この系を分子動力学的に緩和させる計算機実験を行った。その結果,ソフトコア径に対応するパラメ-タを適当な値に選ぶとこの系を比較的安定に保てることがわかった。 設問(II)に答えるために,ペンロ-ズ格子上の原子の凝集過程をモンテカルロ法を使ってシミュレ-トする計算機実験を行った。原子間ホテンシヤルとしてLennardーJones型のものを考えた。又吸着エネルギ-は表面拡散の活性化エネルギ-より十分大きいとし,格子からの再蒸発を無視した。ペンロ-ス格子上の原子数を増加させる過程中に,核形成及びその成長が見られた。しかし,通常の結晶成長で重要な役割をはたすキンクは,この系においては特に注目すべき役割を演じていないように思われた。
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