密度汎関数法に対する局所密度近似では見落とされていた効果を考慮する方法として、密度勾配展開や自己相互作用補正の理論が提案されている。本年度は(1)我々が以前から発展させてきた自己相互作用補正を固体の電子状態計算にどのように盛り込むかという問題についてより一層の検討を行なったとともに(2)孤立原子に対する計算に基づいて密度勾配展開法の問題点を明らかにした。具体的には、まず(1)について、よく局在した状態と系全体に拡がった状態が共存するような場合について我々が以前に提案した方法が使えるのかどうか検討した。その結果、系全体に拡がった状態が完全に占有されている場合(本質的には絶縁体状態の場合)には以前の方法が問題なく適用できて、拡がったP軌道と局在したα軌道が共存するdーPモデルで、局所密度近似ではdとPが強く混成した金属状態が解として得られるのに対し自己相互作用補正を考慮すれば反強磁性絶縁体が解として得られることがわかった。一方、拡がった状態が完全に占有されていない場合(金属的な電子占有の場合)には、局在状態も仮想束縛状態をつくり空間的に拡がりをもつようになる。しかしながら、非局在状態との混成が少しでもあれば急に自己相互作用の効果がなくなるというのも物理的に納得し難いのでこの場合の扱いをどうするのか、金属中の不純物の問題で検討を続けている。(2)については、密度勾配展開法は全エネルギ-は非常に定量的に良い結果を与えること、全エネルギ-に対する自己相互作用による補正は局所密度近似の場合の数%程度の小さなものになっていることがわかった。一方交換孔分布や有効ポテンシャルの漸近形などより本質的な部分については密度勾配展開は局所密度近似の改良にはなっておらず、その為軌道エネルギ-の物理的意味づけなどには問題があることがわかった。
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