研究概要 |
大気圏内核実験は1981年以降行われておらず,核実験で大気中に直接放出されたプルトニウム‐239(以下Puと略記)の大気圏内滞留時間は5年以下と短いので,1985年以降の地表及び洋上への低いPu降下率は陸域にいったん降下・土壌粒子に吸着した後再浮遊したPuによると考えられる。一方,かつて1960年代を降下率のピ-クにして洋上に降下したPuの大部分は,1970年代以降において概ね海面下数百m以深の海水中に含まれていて,表層海水中の低濃度のPuは採水前の数年〜10数年間に海面に降下したものと考えられる。そこで,今日では,表層海水中のPu濃度を大気経由による土壌粒子の海洋へのフラックスの有効な指標にできるのではないだろうかと考えて本研究を実施した。 今年度の研究試料は,1988年夏に北部北太平洋,ベ-リング海の約20測点で200l程度ずつの海水を採取し,船上でPuの予備濃縮処理を施して持ち帰っていたものである。Puの化学分離,電着線源のa線スペクトロメトリ-を行って海水中のPu濃度を定量した。 その結果,日本〜北米大陸間の太平洋を横断する30〜40° N帯の観測点列における表層海水中Pu濃度は,日本近海の比較的高濃度(4.3μBq/l)から北米大陸近海の低濃度(0.5μBq/l)へと順次低下していく傾向にあることが明らかになった。これは,アジア大陸で再浮遊したPu吸着土壌粒子が偏西風によって太平洋上を運ばれながら海面に降下しており,東方に行くほど大気中のPu吸着土壌粒子濃度が低下するためであると考えれば容易に説明可能であり,Puは大気経由による土壌粒子の海洋へのフラックス評価のトレ-サ-になりうると考えられる。 今後,大気浮遊塵中のPu濃度を定量して,表層海水中Pu濃度を大気浮遊塵の海面へのフラックスに換算するための研究を進める計画である。
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