研究概要 |
海洋表層の一次生産はマリンスノ-となって水柱を沈降し、海底に到達する。海底表層部では各種の底生生物が堆積した沈降有機物を消費して生命活動を保っている。本研究の目的は、底生有孔虫類が深海に沈降してきた沈降有機物にどのように反応し、それをどのように消費していくのかを明らかにすることである。研究は海底表層における底生有孔虫の観測と、実験室における飼育実験とを行った。 (1)海底表層部の経年観測…‥相模湾中部部に設けた定点(35^○、2'N,139^○23、0'E,1420m)において、1991年3,4,5,8,11,12月,1992年2月の計7回にわたって表層未攪乱試料を採集し,SedimentーWater Interfaceの構造と底生有孔虫の生産量の経年変化を観測した。定点の底質は軟泥であり,表層3ー4cmは鉄分が酸化して黄色を呈した酸化層からなる。酸化層は春厚く,秋から冬にかけて薄くなる。底生有孔虫は季節によって生体数が異なる。4、5月と12月に生体が多く,3、8、11月には少ない。4、5月にはBolivina pacifica,Fursenkoina sp Textularia kattegattensisなどのshallow infaunaが多い。12月にはGlobobulimina auriculata,Chilostomella ovoideaというdeep infaunaが増加する。これらの有孔虫の季節的消長は有孔虫が食べる餌の季節変化に対応している可能性がある。 (2)有孔虫の飼育実験…‥底生有孔虫が有機物をどのように消費するのかを知るために、定点から採集した有孔虫類を実験室内で飼育した。実験は餌に対する有孔虫の嗜好を調べた。新鮮なクリプトモナスと乾燥クロレラをそれぞれ与えたところ,Bolivina pacifica,Fursenkoina sp.はクリプトモナスに群がり,Globobulimina auriculataは乾燥クロレラを良く食べた。このことは、shallow infaunaは新鮮な有機物を好み,一方deep infaunaは古い有機物を好むことを示している。この実験結果は定点における経年観測の事実をよく説明している。
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