研究概要 |
堆積物で覆われた熱水系において地殻熱流量の高密度測定を行い、熱水循環のパタ-ンや熱エネルギ-の放出量を求めることを目指した。研究を行った海域は,中部沖縄トラフ及びフアン・デ・フカ海嶺である。 フアン・デ・フカ海嶺北端のMiddle Valleyでは、中軸上で盛んな熱水噴出が起こり,大規模な熱水性硫化物鉱床も見つかっている。ここは全体が厚いタ-ビダイトと半遠洋性堆積物の互層に覆われており,これが熱および間隙流体の移動を下部の基盤岩中に制限している。ODP第139節では,Middle Valleyをひとつの大きな熱水系としてとらえ,供給域,硫化物鉱床地域,貯溜層,そして噴出域で温度・物性測定を行い、3次元的な温度分布を求めることを目的とした。このうち熱水噴出域近傍では,海底下わずか20mで250℃を超える高温が観測された。またその直下に炭酸塩のcap rockが存在し,その下では温度が深さ方向に対してほぼ一定であった。このcap rockの下に熱水溜りが存在すると考えられる。一方,噴出域から約70m以上離れると熱水循環の影響は見られず,温度場は熱伝導に支配されていることが判明した。 中部沖縄トラフでは,中軸部のやや南に位置する伊是名海穴内で熱水鉱床が発見されている。本研究ではこれまでに得られた熱流量分布をマッピングし,鉱床地帯下の熱源について考察した。熱水鉱床地帯では局所的に10W/m^2を超える非常に高い熱流量が存在する一方,1000mW/m^2以上の高熱流量は,北東ー南西方向に延びる熱水性の構造に沿って続いている。作成された熱流量コンタ-から,この付近の放熱量は0.5×10^6Wであり,中村(1990)により見積られたこのブラックスモ-カ-(1個)からの放熱量(8×10^6W)を下回る。これより,熱水噴出による放熱が鉱床地帯全体の消長に重要な役割を果たしていることが判明した。
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