研究概要 |
脳内での情報処理のメカニズムを明らかにするために,計算論的な視点からモデルを設定し,その働きを動的な側面に重点をおいて解析した。 まず,甘利と馬被による同期過程における信号/雑音比解析の手法の妥当性を検討するために,モンテカルロシミュレ-ションを行い,彼らの理論では裏付けなしに用いられている仮定の成立条件を調べた。各ニュ-ロンへの入力から正しい信号の部分を取り去った残りの雑音とみなされる部分の強さが,彼らが主張するとおり正規分布に従っているかどうかを,コンピュ-タ上でシミュレ-トしてみたのである。結果は,甘利・馬被理論は,最終的に想起が成功する場合にのみ正しいというものであった。 次に,甘利・馬被の信号/雑音比解析のテクニックを,外部雑音が付加されたケ-スに適用し,有限温度での平衡統計力の結論との整合性を調べた。結果は,定常条件下での記憶容量限界の外部雑音強度への依存性について,定性的によく一致するものであった。このように,全く違った立場からのアプロ-チによってほとんど同じ結論が得られたということは,双方に高い信頼性を与えるものと考えられる。 さらに,平衡状態の統計力学から動的な過程への直接的なアプロ-チとして,非同期過程での平衡自由エネルギ-に基づくTDGL方程式を立ててその解の解析をした。この方程式は,システムが自由エネルギ-の最急降下方向に時間発展するという考え方をあらわに定式化したものである。結果は,想起が成功する場合,その最終段階において,定性的に信号/雑音比解析のそれと一致するものであった。
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