研究概要 |
小脳遠心投射の再生過程と個体発生過程の関連を明かにするために,胎児から成体に至るいろいろな日齢のラットを用いて小脳遠心投射の個体発生過程を発生の初期から調べ、また、これと並行して、新生ラットの全小脳あるいは半側小脳を切除したのち,摘出した胎児ラットの全小脳あるいは半側小脳を相同部位に移植し,その移植小脳の神経結合を調べた。用いた方法はWGAーHRPと蛍光色素(Fluorogold)をトレ-サ-とする順行性・逆行性標識法である。結果は以下の通りである. 小脳遠心投射の個体発生過程:小脳遠心投射はE17にまとまった線維束として脳幹に入り,速やかに成長しE18には視床の最吻側に達し,その間に脳幹と視床の諸核,とりわけ対側の赤核と視床前腹側核ー外側腹側核群に密な終末を与える.この線維の走行と終止の様式は成体におけるものとおおむね同じであったが,異なる点もあった.すなわち、一過性の投射の存在であり、それは以前に我々が仔ネコの小脳遠心投射の再生過程で生ずる異所性投射として報告したものと同じであった。このことは再生が個体発生の繰り返しであることを示している。 移植小脳の神経結合:移植小脳に注入したWGAーHRPにより、小脳核からでる小脳遠心投射は終末にいたるまで順行性に標識され,小脳前核のニュ-ロンが逆行性に標識された.このようにして標識された線維の経路、終止部位、終末の密度、あるいは逆行性に標識されたニュ-ロンの分布はいずれも正常ラットにおけるものと区別することはできなかった.このことから移植された小脳にも正常な入出力のできていることが判明した.以上の結果は哺乳動物の脳であっても,その中枢神経回路網をシステムとして再構築することが可能であることを示している.
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