研究概要 |
(1)鯉網膜における短波長感受性の錐体視細胞からH1水平細胞へのシナプスは,興奮性伝達物質がH1の膜透過を下げるという非通常型であり、APB(2ーaminoー4ーphosphonobutyrate)がアゴニストであるとを我々は以前から示してきた. 本年度は,APB効果と同様に、暗順応が問題のシナプス伝達を阻害することをin situ実験で示した. また、網膜のON型双極細胞で既知のAPB感受性シナプスと同様にmetabotropicである可能性を示すデ-タも単離細胞標本(in vitro)で得ており、色覚のメカニズムとも関連した分子レベルの作業モデルを今後の研究のために目下検討中である. (2)金魚網膜から単離培養したin vitro水平細胞において,NaーCa交換機構とNaーK ATPaseの存在を我々は以前in vitroで示した. 本年度はNaーCa交換の輸送比の決定を高速外液置換により試みたが試術的問題のためにデ-タ量が未だ不足である.また,chemostasisとの関連だけでなく,NaーCa交換とNaーK ATPaseがもつelectrogenic性が水平細胞の光応答の発現や成形に与える影響については理論解析を含めて現在研究中である. (3)in vitro膜電位固定下でNaーfreeにした直後の膜電流のタイムコ-スやカフェイン投与に対する電流応答から金魚水平細胞にはCa^<2+>貯蔵庫が存在することを既に我々は示唆した. 今回は,Co→Co+Naーfrec→Coという独自の[イオン窓]を膜電位固定下で水平細胞に施すことにより、Ca^<2+>の流入を阻入しながらCa^<2+>を出来るだけ排出する実験を行った. Naーfree期間中に記録される内向き電流成分の積分して総排出量を求めると数mMとなり、水平細胞には大容量のCaストアが内在することが判明した。 (4)Backprop3層人工ニュ-ラルネットに明暗の段差(エッジ)の検出を学習させると、中心一周辺拮抗型受容野が中間および出力層のユニットに発現した。 さらに、ノイズパタ-ンを入力に背景として加えると受容野は浅く広くなった。 これは、微分(変化検出)と平滑(ノイズ除法)という相反する要求に対するtradeーoffの結果である。 本年度はさらに以下の進展を得た.<a>SN比に応じて微分と平滑を配分する可塑性は[時間域の受容野]でも発現した.<b>双極細胞の時空間受容野を実測したところ,同様な可塑性を見いだした.<c>ハエ複眼の2次ニュ-ロンも類似の特性をもつことが文献調査から判明した. 以上から,起源や構造は全く違うが問題の計算論的原理は同じであることが示唆される。 (5)高い空間解像力を特長とする錐体視細胞系に電気的なカップリングが存在するという一見不思議な事実について新しい見解を提唱した。即ち、像が小光点やスリットのように微細なときには、光の散乱と電気結合の複合効果により光強度に対する動作域が広がり、いわゆる[平方根則]が現われることを理論モデルで示した。
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